世界のどこの国の人々にとっても重要なのは、名目賃金が上がったかどうかではありません。物価の変動を考慮に入れた実質賃金が上がったかどうかなのです。名目賃金ではなく実質賃金こそが、市井で暮らす人々の生活水準のレベルを決めるわけです。
それでは、安倍政権が誕生してアベノミクスが始動したあとの日本では、国民の実質賃金はいったいどのように変化してきているのでしょうか。
実質賃金は、2013年7月から17カ月連続で減少中
厚生労働省の毎月勤労統計によれば、実質賃金(2010年平均=100)は、2013年7月から直近の2014年11月分まで17カ月も連続して減少しています。2013年前半に名目賃金が少しだけ上がったところで、急激な円安によるインフレが進み、実質賃金を大幅に引き下げてしまっているのです。
実質的にアベノミクスが始まった2013年以降の実質賃金がどのように推移しているのかを見てみると、2013年1~3月は0.1%増、4~6月は0.4%増となりましたが、円安による輸入インフレの影響を受け始めた7~9月には1.5%減、10~12月には1.4%減、2014年1~3月は1.7%減、4~6月は3.4%減、7~9月は2.6%減と、減少傾向に歯止めがからなくなってきています。
以上の推移を見てわかるように、消費税の増税が行われた2014年4月以前の数字をありのままに受け止めると、そこで明らかになるのは、デフレの時よりもインフレの時のほうが実質賃金は大きく落ち込んでしまっているという事実です。
前回のコラム「アベノミクスは消費税5%でも失敗していた」でも指摘したように、「もしアベノミクスが失敗したら、それは消費税を増税したからである」と、リフレ派の経済識者たちがそろって保険をかける発言を繰り返していますが、そのような発言は実質賃金の推移を見れば真実ではないことが、誰の目から見ても明らかなのです。
確かに、消費税増税実施直前の2014年1~3月期のGDP成長率がプラス6.0%であったのに対して、4~6月期がマイナス7.1%に落ち込んだのですから、そういう理由付けをしたくなるのはわからないでもないですが、実のところ、高成長を達成した1~3月期においても実質賃金1.7%減となっていたわけです。
これはどういうことかというと、誤解を恐れずに申し上げると、アメリカのケースと同じように、日本でも一般国民の所得が富裕層と大企業の所得に移転しているということなのです。
だから、庶民の消費を象徴するスーパーの売上高は、アベノミクス後も一向に増えていない一方で、高級品を扱う百貨店の消費は堅調に増加していますし、輸出企業を中心に、利益が史上最高益を更新するまでになっているわけです。
私の見解では、消費税の増税がなかったとしても、アベノミクスはすでに失敗しているわけですが、リフレ派の識者たちはそれでも「アベノミクスが失速したのは、消費税増税が原因である。GDPを見れば明らかである」と言い張るのかもしれません。
そこで、安倍政権が2014年4月の消費税増税を行わないと決定して、国民にあらかじめ周知していたと仮定してみましょう。そうであるならば、駆け込み消費が発生するわけがなかったので、1~3月期のGDPが6.0%もプラスになることはなかったし、その反動として4~6月期が7.1%ものマイナスになることもなかったでしょう。
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