たとえば第49回で述べたように、日本の経営者は「これからの市場は中国だから、そこに進出する」としている。これは市場規模が拡大するという量的側面のみを見て、市場構造の変化という質的側面を見落とした考えだ。「20年タイムラグ法則」をここに当てはめれば、次のようになるだろう。
いまアメリカの大学では、同程度の実力を持つ学生が、日本人1に対し中国人5の比率で存在している。したがって20年後の中国市場において、技術力などで同程度の実力を持つ企業が、日本企業1に対し中国企業5の比率で存在するだろう。日本企業は、それらの中国企業と競争するのである。
もちろん、この他に欧米企業も強力な競争相手として存在している。したがって、20年後の中国市場における日本企業のシェアは、かなり低いものになっているはずである。拡大する中国市場を日本企業が独占できると考えているなら、大きな誤りだ。
しかも中国企業が成長するのは、これからのことである。つまり現在中国市場に進出できた日本企業は、これから後の時点で中国企業に押されて敗退してゆくわけだ。その過程は、極めて大きな痛みを伴うものになるだろう。
これまでも、中国は日本に重大な影響を与えてきた。90年代以降の日本経済の停滞は、基本的には中国の工業化によるものだ。ただし、それは、中国の量的な大きさによって引き起こされたものである。しかし、これからは中国の質的向上が問題になるのだ。
20年後の中国は、質的側面で日本の半分程度の水準になる。人口は日本の10倍なので、GDP、論文数、同一水準の企業数などが日本の5倍になるのだ。この意味を正しく理解しなければならない。
いま適切な方向付けをしておかなければ、あらゆる分野で日本は中国に押しつぶされる。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年2月11日号)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら