版籍奉還という大改革を行うにあたって、慎重な大久保はもう1つの手を打っている。それは「高官公選」である。
これまで倒幕を大きな目的としてまとまってきたが、その過程のなかでは、なりゆきで高官に就いている者もいた。新政府が名実ともにスタートした今、改めて選出を行い、増えすぎた高官を整理しようとしたのだ。もちろん、明治新政府の脆弱な財政基盤も踏まえてのことだろう。
大久保利通をはじめ、30代の高官が多い
明治2年5月、長州の木戸孝允から同意をとりつけたうえで、大久保は互選を実施する。互選とは、お互いの中から選挙して選び出すこと。投票によって、輔相は1人、議定は3人、参与は6人という10人に絞った政府最高意志決定機関を確立しようとした。
互選の結果は以下の通りである。
【輔相】
三条実美(32歳)
【議定】
岩倉具視(44歳)、鍋島閖嬰(直正、55歳)、徳大寺実則(30歳)
【参与】
大久保利通(39歳)、木戸孝允(36歳)、副島種臣(31歳)、東久世通禧(36歳)、後藤象二郎(31歳)、板垣退助(32歳)
この時点で、大久保がまだ40歳になっていないことには驚くばかりだが、ほかの高官たちも総じて年齢が若い。なかでも存在感を発揮したのが、参与の大久保と木戸だ。版籍奉還は、木戸が以前から考えていた改革でもあった。
このときに大久保は、輔相の三条とともに、最高得点の49票を獲得している。三条は公家社会の名門から出ているだけあり、家柄への投票へといってもよい。その点、大久保は正真正銘の実力である。自分から言い出したのも自信があったからだろう。このときの大久保の激務ぶりは、大久保が1日東京を留守にすれば、1日分、政務が遅れると言われたほどだった。
万全の体制で「版籍奉還」を推し進めた大久保。次なるステップの「廃藩置県」では、最も戦いたくない相手が、大久保の前に立ちふさがる。薩摩藩の国父、島津久光。自分を出世させてくれた恩人に、大久保はついに立ち向かうことになるのだった。
(第29回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
松本彦三郎『郷中教育の研究』(尚古集成館)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』(講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』(ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
鹿児島県歴史資料センター黎明館 編『鹿児島県史料 玉里島津家史料』(鹿児島県)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵”であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
萩原延壽『薩英戦争 遠い崖2 アーネスト・サトウ日記抄』(朝日文庫)
家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜―将軍家の明治維新増補版』(中公新書)
平尾道雄『坂本龍馬 海援隊始末記』(中公文庫)
一般財団法人 日本開発構想研究所『東京遷都の経緯及びその後の首都機能移転論等』(国土交通省 国土政策局 総合計画課)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
佐々木克『江戸が東京になった日 明治二年の東京遷都』(講談社)
渡部一郎『遷都論のすべて』(竹井出版)
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