上海「団地5000人を市外隔離」日本人の切実な声 封鎖生活1カ月、住民たちはSNSで抵抗を続ける

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投稿者は昼までに当局が正式文書を出すことを条件に、削除に応じた。どこの棟の住民かわからないその投稿者は、グループチャットで「今後も当局とのやり取りは録音、録画するように」と助言した。

ウェイボに投稿された文章(梨浜さん提供)

日本から上海に移住し8年目の梨浜さんは、当局の「命令」に対しほとんどの住民が一歩も退かず、抗議を続けた姿に、「権力に抱き込まれない上海人の強さ」を改めて感じたという。

だが、梨浜さんは「ただ……」と言葉を濁す。

「第1陣として連れて行かれ『決死隊』と呼ばれた住民たちはちゃんと安徽省の四つ星ホテルに案内され、三食用意してもらっている。それがわかると、23日には50人ほどが立候補し第2陣として自主隔離した。

慎重な人たちも先に隔離された人たちが送ってくる写真や動画を見て、『高級ホテル』がうそでないと理解すると、食事の心配をせず快適な部屋に住めるホテル隔離のほうがいいと考える人が増えてきて、私のルームメイトも25日に第3陣で行きました。実利主義も上海人らしい」

封鎖がこれ以上長引くと厳しい

上海市は14日間陽性者が確認されなかったエリアについては外出を許可しているが、梨浜さんの団地は毎日陽性者が出ているため、5月上旬までの完全封鎖が確定している。

ホテルに到着したルームメイトから大きなバスタブの写真が送られてきて、「ゆっくりお風呂に入れて羨ましい」と思いつつも、感染拡大エリアの住民ごと市外に移すことで、市内のゼロコロナを達成しようとしている当局の姿勢に、あきれる気持ちもある。

長引くロックダウンで経済の打撃も大きく、広告営業の仕事をしている梨浜さんは、「2020年のコロナ禍を乗り切れたクライアントも、封鎖がこれ以上長引くと厳しいかもしれない」と心配する。

住民たちはグループチャットで、5月いっぱい封鎖が続くことを覚悟しつつ、「ゼロコロナ」への不満を書き連ねているという。

浦上 早苗 経済ジャーナリスト

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
Twitter: @sanadi37

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