池上氏が解説「東西冷戦はどう始まり終結したか」 今の世界情勢も突き詰めるとここに行き当たる

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こうすれば、資本主義の思想は入ってきません。特にスターリンの時代、彼は国民を信用しませんでした。国民はついつい真面目に働かないで、西側の思想や文化にかぶれて堕落してしまう。堕落しないように監視しなければいけない。そういう発想でした。

社会主義を守るためと称して独裁的な支配を強め、資本主義国とは接触しないよう閉じこもった。それが当時のソ連や東ヨーロッパ諸国です。

80年代末、ソ連の経済悪化で冷戦終結

40年以上も続いた東西冷戦も、終わりは意外とあっけないものでした。

1980年代後半、ソ連の経済がどん底に落ち込み、もうケンカは続けられないという状況になります。この時、ソ連の方から「もう冷戦はやめよう」と言い出しました。当時のトップ、ゴルバチョフ書記長が「仲直りして軍事費を減らそう」と方針転換。リーダーが考えを変えたことで、ソ連グループにいた国々も次々と社会主義をやめて資本主義に転じました。

そんな様子を見て、「冷戦は終わった」と世界の人々は徐々に理解していきました。

冷戦が終わり、これで世界は平和になると思った人は多いはず。でも、なりませんでした。

冷戦時代は、2つの超大国がそれぞれのグループの国が勝手なことをしないように抑えていました。しかし、冷戦後は両者のバランスが崩れて抑えがきかなくなり、世界各地で紛争やテロが頻発するようになったのです。

東西冷戦が終わったから日本がデフレになった──。こんなことを言うと驚く人がいるかもしれませんね。でも、そういう一面があるのは事実です。

どういうことかというと、冷戦時代、ソ連をはじめ東側諸国はまったくの鎖国のような状態でした。世界の中でも資本主義の国は限られています。そのなかで日本は相対的に人件費も安く、モノを作ればどんどん売れていくという状態でした。

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ところが、東西冷戦が終わりました。東側諸国の鎖国は解かれ、国がオープンになります。社会主義だった国は、実は教育がしっかりしていました。みんな読み書きができるのはもちろん、能力の高い人たちも大勢います。でも、それまで閉鎖的な世界のなかで経済は停滞していましたから、人件費が猛烈に安いのです。

となると、世界の企業が東ヨーロッパや中国に進出してそこに工場を建てれば、非常に安くモノが作れるようになります。その結果、どんどんモノの値段が下がり、世界的なデフレになっていったのです。

東西冷戦が終わったことによって、いろいろな商品は安くなるのですが、世界的なデフレにもなってしまう。近年のデフレには、そういう背景もあったということです。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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