ウディ・アレンがアマゾンに番組を作るワケ 映画一筋の人を口説いたアマゾンの力

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ハリウッドの重役のなかには、アレンは自分からシリーズものの制作を持ちかけるタイプではないという意見もある。関係者によると、ネットフリックスやHuluに売り込んだ事実はない。

アレンの癖のある性格を考えると、アマゾンはリスクを抱えるかもしれない。昨年2月に養女のディラン・ファローが、幼児期にアレンから性的虐待を受けていたと公開書簡で告発。大きなスキャンダルとなった。性的虐待の疑惑は、90年代にアレンがディランの母ミア・ファローとの離婚で親権争いをした際に初めて取り沙汰された。アレンは当時も否定しており、この件で犯罪行為に問われたこともない。

アマゾンのコンテンツ戦略に変化?

ディランは書簡で俳優たちに、アレンと本当に仕事をしたいか、よく考えてほしいと訴えた。しかしアレンはその後も、映画界に欠かせない存在だ。

対照的なのがコメディアンのビル・コスビーだ。昨年複数の女性から、十年以上前に薬物を飲まされて性的暴行を受けたと次々に告発されると、NBCテレビはコスビーの企画を中止。ネットフリックスは番組の配信を延期し、ケーブルテレビも「ザ・コスビー・ショー」の再放送を中止した。過去にも同様の疑惑が持ち上がっているが、コスビーは否定している。

「アマゾンには売り方の公式がある」と、ピボタル・リサーチのメディア・アナリスト、ブライアン・ウィーザーは言う。「顧客の一部に不快感を与えないようにしつつ、ほかの顧客の心をつかむというバランスを計算しているのだろう」。

アレンとの契約は、アマゾンが戦略を大きく転換しつつあることも物語る。5年ほど前にオリジナルコンテンツを制作するスタジオを設立した当初は、著名な監督や脚本家、俳優を呼ぶのではなく、テクノロジー企業らしくオンラインで企画を募集した。さらに、基本的にはパイロット版をオンラインで公開し、視聴者の反応をもとにシリーズ化するかどうかを決める。アマゾンがあらかじめ1シーズン分の契約を結ぶのはアレンが初めてで、オンラインの「試写会」も行われない予定だ。

BTIGリサーチのメディア・アナリスト、リッチ・グリーンフィールドは、アマゾンやネットフリックス、Huluなどのストリーミング配信サービスがカネをかけて優秀なクリエイターを集めるようになれば、従来のテレビネットワークはますます追い詰められるだろうと語る。

「オンデマンドでまとめて視聴できるコンテンツの質が高くなるにつれて、毎週テレビの前に座って視聴するスタイルが敬遠されている。『オレンジ・イズ・ザ・ニューブラック』(ネットフリックス配信のコメディドラマ)や『トランスペアレント』を10話まとめて楽しむようになれば、テレビで20分間のコマーシャルに我慢しつつ、途切れ途切れのストーリーを何週間も見るという習慣に戻れなくなる」。

              (執筆:Emily Steel記者、翻訳:矢羽野薫)

               (C) 2015 New York Times News Service

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