狩猟・採集時代からの「脳のクセ」が左右--『ヒトはなぜ拍手をするのか』を書いた小林朋道氏(鳥取環境大学教授)に聞く

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──エネルギーを使わない?

狩猟・採集社会では、自分より順位的に上の者が目の前にいるときは、エネルギーを使って融和を示す。エネルギーを使わない、つまり楽な姿勢を取るのは敬意を払っていないというメッセージと同じことだ。

一方の、ポケットに手を入れるというのは、一見リラックスのポーズのようだが、相手を問題にしていないと、攻撃的な意味合いに取られる。同時に肩が上がる姿勢は大きな意味を持つ。狩猟・採集社会でヒトは、肩が上がるのは威嚇している姿勢だと脳に埋め込んだ。

腕組みをすることも、肩が上がるため威嚇的だと感じられやすい。逆に肩の部分は裃などの服装や相撲をはじめとしたスポーツで、意識的に強さを強調するために使われてもいる。

──肉体自体にその“残痕”があるともあります。

人間の体毛は今でこそ短くなっているが、生え方は変わっていない。面白いことに、相手を威嚇するときには自律神経が興奮して毛が立ち、肩が盛り上がる。

──顔の表情にはポーカーフェースというのもあります。

魚にも闘争のときに最後まで正直な気持ちは見せない種類がある。危険な状態でも「顔色」一つ変えない。空威張りしていれば、ぎりぎりで相手が折れてくれるかもしれないというわけだ。それも駄目になると、最後にパッと体色を変え、融和のしま模様になったりする。

人間比較行動学の世界的な権威が相撲を観戦して、下位の力士なら、動作や表情で勝敗をだいたい予想できたと言っていた。ところが上位の取り組みは予測が難しい。鍛えられてそうなったのか、もともとそうだったから上位に行けたのか。表情には、エネルギーを使わないという意志だけでなく、動揺はしないという心の動きも表れる。

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