世界初パンダ専用ミルク「日本」で開発の深い事情 かなり「ニッチ」でも製品化が実現した理由

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そうしたなか、日本大学生物資源科学部獣医学科の渡部敏教授(現在は名誉教授)が開発した搾乳機を使い、成都パンダ基地の3頭のパンダから母乳をサンプルとして得ることに成功した。2004年に7歳のパンダから30ml、2006年に16歳のパンダから24ml、2007年に8歳のパンダから31.5mlだ。

母乳のサンプルは冷凍して成都から日大へ運ばれ、神奈川県にある森永乳業の研究・情報センターで分析した。このデータを基に、パンダの成長なども踏まえて人工乳の組成を決定。主な組成は、タンパク質38%、脂肪40%、炭水化物12%(うち7%は乳糖)、灰分6%、水分3%とした。このほか、ラクトフェリン、ヌクレオチド、オリゴ糖、ドコサヘキサエン酸も加えた。

開発したのは2010年だったので、改良版の名称は「パンダミルク-10」にした。開発の経緯は、2010年に成都で開催されたパンダの国際会議で発表。2016年には、成都パンダ基地、日大、高津さんらが論文「Analysis of the breast milk of giant pandas (Ailuropoda melanoleuca) and the preparation of substitutes」(ジャイアントパンダの母乳の分析と代替品の調製)として発表した。

和歌山生まれの双子パンダで「試験」

開発した「パンダミルク-10」は、パンダに飲ませて試験をした。参加したのは、アドベンチャーワールドで2010年8月11日に生まれた双子の海浜(かいひん)と陽浜(ようひん)。試験は「動物の愛護及び管理に関する法律」と日本動物園水族館協会の倫理規則に従い、2011~2012年に実施した。

海浜と陽浜には、生後280~380日の間、①「パンダミルク」と粉ミルク(犬猫用と人間の乳児用)、②「パンダミルク-10」と粉ミルク(同)を1日に800~1300ml与え、母乳も飲ませた。その後の100日間は、母乳を除いた①と②を1日1370~1570ml与えた。試験期間中、海浜と陽浜は体重も便も問題なかった。こうしたことから、赤ちゃんパンダに安全に与えられるとの結論に至った。

この試験の経緯は、2011年と2012年に成都で開催されたパンダの国際会議で高津さんが発表した。その後、成都パンダ基地、アドベンチャーワールド、高津さん、日大が論文「Crossover feeding test of a new milk mixture for giant panda (Ailuropoda melanoleuca) cubs」(ジャイアントパンダの赤ちゃん用の新しいミルク混合物のクロスオーバー給餌試験)にまとめ、2018年に発表した。

アドベンチャーワールドは、2012年8月10日生まれの優浜(ゆうひん)から「パンダミルク」を「パンダミルク-10」に切り替えた。パンダたちはどのような反応を示すのだろう。

「双子は物心がつく前から飲んでいるので、特に抵抗なく飲んでいます」(アドベンチャーワールド)。哺乳瓶でなくとも上手に飲めるようになれば、お皿に変える。そのほうが飼育員も楽だ。ただ、飲みながらこぼすこともあるので、必要な量を飲ませる難しさもある。

双子でなく1頭で生まれたパンダの反応は、さまざまだ。優浜は生後9カ月で与えられると、すぐ飲んだ。2016年9月18日生まれの結浜(ゆいひん)も生後9カ月頃から与えられたが、嫌がって飲まなかった。そこでスタッフはハチミツを混ぜて慣らすなど試行錯誤した。結浜が「パンダミルク-10」だけで飲めるようになったのは生後13カ月の時だ。

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