世界初パンダ専用ミルク「日本」で開発の深い事情 かなり「ニッチ」でも製品化が実現した理由

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そこで上野動物園はクマの母乳の分析結果を集めた。クマは分類上、パンダと近い。ただ、冬眠中に出産することもあるクマと違い、パンダは冬眠しないうえ、水分の多い笹も食べる。こうしたことも踏まえ、分析結果を基に組成を決めた。まずはタンパク質、脂質、炭水化物、灰分、水分の5つに着目するのが基本だ。ビタミン類やミネラルの数値も決めた。

開発は1988年3月に完了した。同年6月23日、上野動物園でユウユウ(悠悠)が生まれた。双子ではなく1頭だ。ユウユウは母乳で育ち、「パンダミルク」は出番がなかった。だが父のフェイフェイは飲んで、便の状態も体調も改善したので、母のホァンホァン(歓歓)と姉のトントンが飲む牛乳も「パンダミルク」に変えた。中国にもWWF(世界自然保護基金)を通じて送られ、双子パンダに使われたそうだ。

哺乳瓶でミルクを飲む雌のレイレイ。2021年12月20日(写真:公益財団法人東京動物園協会提供)

母乳に比べタンパク質が多かった

上野動物園ではユウユウ誕生から約24年間、パンダが生まれなかった。一方、和歌山県白浜町にあるアドベンチャーワールドでは2000年9月6日、初めてパンダが生まれた。良浜(らうひん)だ。以来、同園も「パンダミルク」を使っている。

最初に与えたのは良浜だが、この時は人間用のミルクやハチミツなどと混ぜていた。「パンダミルク」だけを与えたのは、2006年12月23日に生まれた双子の愛浜(あいひん)と明浜(めいひん)が最初。「愛浜は2歳くらいであまり飲まなくなり、残すようになりました。一方、明浜はミルクが大好きで、お皿まで舐めた後、愛浜の分まで飲もうとしたことがあります」(アドベンチャーワールド)。

アドベンチャーワールドのパンダたちは、「パンダミルク」の改良と利用に大いに貢献した。実は「パンダミルク」には、母乳に比べタンパク質が10%多く含まれていた。これらを踏まえ、2004年に改良が始まる。日本大学、中国の成都大熊猫繁育研究基地(以下、成都パンダ基地)、森乳サンワールドの共同研究だ。

改良に向け、パンダの母乳を詳細に分析する必要があった。とは言え、母乳を得るのは簡単ではない。出産しなければ出ないし、出ても赤ちゃんが飲むほうが優先される。しかも母親が落ち着いた時でないと、人の手による搾乳は危険だ。

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