「1億総メディア社会」を生き抜く必修知識とは なぜ「メディアリテラシー教育」が重要なのか
メディア情報を読みとく能力がそもそも高くない人にわかってもらおうとするのは、本当に大変だが、それでも情報の読みときができなければ、大きく誤ってしまう。場合よっては生死の問題にも至る。
そう考えると、メディアリテラシー教育、もっとありていに言えば、受け手の能力向上の重要性がこれだけ重要になっていることは過去にはない。
この難しいメディアリテラシー教育に本格的に取り組んだ実践書が坂本旬、山脇岳志編『メディアリテラシー:吟味思考(クリティカルシンキング)を育む』(時事通信社)である。
この本のポイントは情報の読みときの根幹にあるクリティカルシンキングの涵養である。上述の私の言葉で言えば、情報を読みとくための「総合力」を育成することだ。
ちまたの言説を安易にうのみにせず、深く考え、行動するためにどうしたらよいのか。研究者、ジャーナリスト、放送関係者、官僚、教育者ら30人以上がこの本に執筆者や授業実践者として登場する。
クリティカルシンキングの涵養
編者の坂本旬はメディア情報リテラシー研究で日本のリーダー的な存在である。もう1人の編者の山脇岳志は新聞記者からメディア研究に特化したシンクタンクに活動の拠点を移し、メディアリテラシーが困難な時代を乗り越えるための実践的な研究に邁進している。メディアリテラシー教育の実践書の全体を統括するのは、この2人以上の人物は日本にいない。
メディアの現状やメディアリテラシーの定義などの前半部の論考がまず有益だ。さらに情報発信者と教育者の視点や詳細な実践報告は過去の例書にはない厚みがある。
情報の真偽を見極めながら投稿をシェアし、フォロワーを増やす宮崎洋子と長澤江美の授業や、横山省一の「だ(誰)い(いつ)じ(事実)か(関係)な(なぜ)」いう基本姿勢の例示など、読んでいて実践の状況が目に浮かぶ。
全体を通じて「クリティカルシンキング」を「批判的思考」ではなく「吟味思考」と訳することで、「まずは批判」という誤ったやり方を超えようという点もユニークだ。
受け手の能力向上の重要性がこれだけ重要になっていることは過去にはない中、メディア研究やメディアリテラシー教育に関心がある読者にとっては、つねに近くにおいておきたいレファレンスである。
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