あなたの上司がムダに出社させたがる本当の理由 「承認欲求」に関係?テレワーク進まないなぜ

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そもそも「偉さ」の見せびらかしは、二重の意味でテレワークと相性が悪い。

第1に、両方のベクトルが逆であること。承認欲求は、より密接な関係ほど満たされやすい。とりわけ見せびらかすには、相手と接する機会が多いほど都合がよい。そのため、人と人が接近する方向に力が働く。

いっぽうテレワークは物理的に離れていることを前提にしている。そのうえコロナ禍のもとで「密」は許されない。要するに「見せびらかしたい」という欲求と、コロナ禍が突きつける要求とは基本的に相容れないのである。

テレワークの世界に「偉い」はなじみにくい

そして第2に、「偉さ」は上下関係のなかで生まれるものだが、テレワークの世界はフラットで対等な関係が基本になる。したがってテレワークの世界に「偉い」という概念はなじみにくいのだ。

テレワークは有名企業、一流企業の社員という組織の後光を失わせるだけではない。組織のなかでは管理職の地位そのものが揺らぎつつある。いわば構造的な変化である。

管理職の仕事のなかで大きな比重を占めているのは情報の仲介や集約、それに仕事の配分などである。たとえばトップからの要求に応じて部下に現場の情報を求めたり、部下の仕事をまとめて上に報告したり、新たな仕事が入ってきたとき部下にそれを割り振ったりする。

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しかし電子メールやITツールが発達したいまでは、必要ならトップがいつでも現場に直接聞くことができるし、現場の情報をまとめるのも専用のソフトを使えばよい。そのほうがはるかにスピードは速いし、バイアスも入らない。

また客から担当者に直接仕事が入ってきて、担当者が自分で判断しなければならないケースも増えてきた。その結果、上司が窓口を一本化して部下に仕事を割り振るというスタイルが一般的ではなくなったのだ。

このように仕事の進め方そのものが従来のトップダウン型からボトムアップ型に変化すると、必然的に管理職の存在感は小さくなる。会社によっては部下の間から「上司抜きのほうが仕事はスムーズに進む」という皮肉混じりの声も漏れ聞かれる。

さらに外部とのコミュニケーションやネットワーク形成が容易になり、プロジェクト・ベースの仕事の比重が高まったことにも注目する必要がある。それらの仕事の多くは、社内における特定の部署の枠に収まらない。実際に多くの人が複数の部署にまたがるような仕事をしている。それはとりもなおさず旧来の縦割り型の組織が空洞化しつつあることを意味している。

太田 肇 同志社大学教授

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おおた はじめ / Hajime Ohta

1954年兵庫県生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。京都大学経済学博士。公務員を経験の後、滋賀大学経済学部教授などを経て2004年より同志社大学教授。専門は組織論、人事管理論、モチベーション論。著書に『承認欲求』『お金より名誉のモチベ-ション論』(東洋経済新報社)、『日本人ビジネスマン「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)、『承認とモチベーション』(同文舘出版)、『公務員革命』(ちくま新書)、『組織を強くする人材活用戦略 』(日経文庫)、『がんばると迷惑な人』『個人を幸福にしない日本の組織』『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)など多数。

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