副社長3月退任、日立「鉄道ビジネス」立役者の足跡 英国高速鉄道とM&Aで成長、世界大手に比肩

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ドーマー氏は2015年、日立本体の執行役常務に就き、経営陣に名を連ねることになった。翌2016年には執行役専務に昇格した。

「2004年に初めてイノトランスに参加したときは、非常に小さなブースでした」――。

アンサルドブレダ買収後にイタリアの工場で製造し、2018年のイノトランスに出展したイタリア鉄道向け2階建て電車「ロック」(記者撮影)

2018年、ベルリンで開催された世界最大の鉄道見本市「イノトランス」の会場で、ドーマー氏が静かに語り始めた。世界中の鉄道関連メーカーが競って出展するこの見本市において、ビッグスリーのブースはつねに他を圧倒する巨大ぶりを誇る。当初の日立はほかの日本企業との共同出展という形で出展したにすぎなかったが、鉄道事業の拡大に合わせて日立ブースの面積もどんどん大きくなり、2018年の開催時には、ビッグスリーと肩を並べるほどのスケールになった。ドーマー氏の発言は、「ここまで大きくなった」という思いを吐露したものだった。

2019年、ドーマー氏は代表執行役副社長に昇格した。日立の長い歴史においても、外国人副社長は初のケースだ。2019年度の有価証券報告書によれば、6人いる代表執行役副社長の中でドーマー氏は上から5番目だったが、ドーマー氏の報酬額は3億8900万円と社長に続くナンバーツーで、ほかの副社長の報酬額を圧倒していた。

10年で売上高は4倍以上に

副社長としての職務はビルシステム事業と鉄道事業の社長補佐。その後、環境事業戦略の責任者にも就いた。守備範囲が格段に広くなった。日立の鉄道事業を所管する鉄道ビジネスユニットのCEOにはアンサルドSTS(現・日立レールSTS)のCEOを務めるアンドリュー・バー氏が就いた。とはいえ、機関投資家向け説明会や鉄道の大型案件発表などの場においてはドーマー氏が引き続き登場し、鉄道ビジネスのトップとしての気概を感じさせた。

2010年度に1331億円だった鉄道事業の売上高は2020年度には5477億円と4倍以上に拡大し、アルストムやシーメンスの背中が見えてきた。国内のライバル、川崎重工業の鉄道車両事業の売上高は、2010年度は1311億円で日立と拮抗していたが、2020年度も1332億円と横ばいにとどまっていることを考えれば、日立のすごさがよくわかる。

日立の鉄道ビジネスの売上高は今後も飛躍的に伸びそうだ。その理由は大型案件を次々と手中に収めていること、そして新たな大型のM&Aを実施したことだ。

まず、2021年3月にアメリカ・ワシントンDCにおける地下鉄車両の製造を受注した。追加製造も含む契約金額は最大22億ドル(約2686億円)に達する。

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