副社長3月退任、日立「鉄道ビジネス」立役者の足跡 英国高速鉄道とM&Aで成長、世界大手に比肩
さらに大型の鉄道案件にも日立は手を挙げた。「都市間高速鉄道車両置き換え計画(IEP)」と呼ばれる、ロンドンから西に延びる約300kmのグレートウェスタン本線と、ロンドンから北東部に延びる約700kmのイーストコースト本線を走る老朽車両を置き換えるプロジェクトだ。製造数は122編成、866両。27年間にわたる車両の保守もセットになっており、プロジェクトの規模はHS1をはるかに超える。
資格審査を通過したのは、日立、ボンバルディア&シーメンス連合、そしてアルストムの3陣営。日立のライバルは当時「ビッグスリー」と呼ばれていた、世界の鉄道3強だった。
アルストムが早々に競争から脱落し、ボンバルディア&シーメンス連合との一騎打ちとなった。ボンバルディアはイングランド中部に車両工場を有しており、受注すれば英国内で車両が生産される。日立も英国内の工場建設を決断し、受注が雇用創出に貢献することを強くアピールした。結果、日立の提案が評価され、2012年に受注にこぎつけた。この年、ドーマー氏は日立レールヨーロッパの取締役会会長兼CEOに就いた。さらに2014年には日立本体の交通システム事業グローバルCEOに昇格。イギリスだけでなく日立の鉄道事業全体を統括する立場になった。
イタリアメーカー買収、生産性を劇的改善
IEP向け高速車両も高い評価を受け、日立はウエスト・オブ・イングランド向け236両、トランスペニー向け95両、ハル・トレインズ向け25両の新型高速車両の受注を獲得。さらにスコットランドで鉄道運行を行うアベリオ・スコットレール社向けの近郊用車両234両も受注した。
イギリスから欧州大陸、さらに世界各国に進出する足がかりとなる案件も舞い込んできた。イタリアのハイテク関連企業・フィンメカニカ(現・レオナルド)の鉄道車両製造と信号部門の買収案件である。フィンメカニカは防衛や航空などの中核事業に集中するため、傘下の鉄道車両メーカー、アンサルドブレダと鉄道信号メーカー、アンサルドSTSを売却することにしたのだ。
日立が欲しかったのは、アンサルドSTSが持つ信号の技術力や世界的に広がる販売網だった。一方で、アンサルドブレダはトラブル続きで業績が悪化しており、単独で売りに出しても買い手がつきにくい。そこで両社はセットで売却されることになった。両社は2015年に日立グループ入りしたが、アンサルドブレダはアンサルドSTSの付録のような形だった。だが、アンサルドブレダの工場に日立の生産改善手法を持ち込んだところ、生産性が劇的に改善した。
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