「ウィル・スミス平手打ち」擁護に見る日米の差 妻の外見へのジョークに対する暴力は愛の証か

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だが、権力と富がある人、たとえば政治家やセレブリティーは、思いきりネタにしてもいい。いや、コメディアンからネタにされることを許容できないなら、政治家やセレブリティーになるなと言っていいくらいだ。

長寿番組「Saturday Night Live」などは、毎回、実在の政治家やセレブリティーのパロディーをやっている。誰かが自分を演じてバカなことをやっているのを見て、不快に思う有名人もいるだろう。しかし、そんなことで文句を言うのは、「小さい」のである。

イギリス人コメディアンのリッキー・ジャーヴェイスも、本人がいる前で大物セレブを容赦なくネタにするのが大得意だ。2020年のゴールデン・グローブ授賞式では、ジョー・ペシをベイビー・ヨーダと呼んだり、マーティン・スコセッシの身長をネタにしたりしている。テレビに映る表情を見るかぎり、そういったジョークに抵抗を持ったセレブも明らかにいたが、ジャーヴェイスは「ただのジョークだよ。それを忘れないで。僕たちはみんなすぐ死ぬんだから」と言いつつ、遠慮なく続けた。

セレブの「お説教」に一般人はうんざり

名声にまかせてなんでも自分の思うままにしてきたハリウッドのセレブリティーが偉そうに社会問題を説教することに、一般人がうんざりしているのをジャーヴェイスは知っている。だから一般人を喜ばせるためにそれをやるのだと彼は語っている。彼のターゲットにされたセレブリティーが、彼のジョークを気に食わないからと、舞台に上がって彼に平手打ちをしたことがあっただろうか。

今回のロックのジョークの場合は、黒人が黒人をネタにした。しかも、スミス夫妻はトップクラスのパワーカップルで、ハリウッドにおけるステータスはロックより上だ。そして、多くの人と同様、ロックは、ジェイダ・ピンケット・スミスが脱毛症であることを知らなかったという。もし知っていたら、さすがにそのネタは選ばなかったのではないかと思われる。

腹が立ったとしても、スミスはそこでぐっと堪え、CM休憩中か授賞式の後、個人的にロックに文句を言うべきだった。あるいは、自分はもうすぐ主演男優賞受賞者として舞台に立つとわかっていたのだから、受賞スピーチの中で、あくまで軽い感じでロックのジョークに抗議し、妻の強さを称えてあげればよかった。しかし、彼はそうせず、暴力をふるうという、原始的かつ野蛮な行動に出たのである。これは、何重もの意味で、罪深い。

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