アップルの「オスカー勝利」を深読みしたいワケ 複雑化する映画ビジネスと「収益を上げる配信」

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今年のオスカーで注目されたNetflixオリジナル映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(写真:Netflix)

作品のクオリティーは予算と必ずしも比例しませんが、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は文句なしの作品です。1993年公開映画『ピアノ・レッスン』でカンヌ国際映画祭のパルム・ドール賞を受賞したカンピオン監督を迎え、主演は英国俳優ブームの火付け役であるベネディクト・カンバーバッチを起用。1920年代のアメリカ・モンタナ州の牧場を舞台にしながら、男性性を問う現代的なテーマを扱っています。

第94回アカデミー賞で監督賞を受賞したジェーン・カンピオン監督(写真左)と主演のイギリス人俳優ベネディクト・カンバーバッチ(写真提供:Netflix)

劇中、野暮な説明が一切ないのは、観る者の思考力を試すようで、最後の最後まで1ミリも見逃せません。二度、三度と見るほど理解を深めることができる意味では配信向きであり、一方で、細部にこだわった作りは劇場のスクリーン向きでもあります。実際のところは一部の劇場で公開されましたが、配信主体です。

2.5兆円の規模に縮小する映画業界

配信系スタジオが映画ビジネスに本腰を入れると同時に、映画ビジネスは複雑に変化しています。まずは、シアトリカル・ウィンドウと呼ばれるルールが完全に崩されました。90日間は必ず劇場公開され、その後にDVD化、テレビ放送、配信されるという縛りなく、今はスタジオによって劇場公開の期間はまちまち。パラマウントやユニーバサルは基本17日間とし、ディズニーやソニーや基本45日間としています。既存のハリウッドスタジオも独自の配信サービスを持ち、劇場と配信のセットで収益を上げていくモデルを今試しているからです。

市場縮小も大きく関係しています。2019年の段階では世界全体の映画市場は5兆円に上る規模でしたが、2021年は約2.5兆円と大幅に縮小しています。この現状について、アメリカの最大手エンターテインメント業界誌Varietyマーケットリサーチ部門のアナリストチームは3月開催のSXSWビジネスセミナーで厳しい見解を示しました。

「映画ビジネスがなくなるとまでは言い切れないが、今後ますます中小規模の映画は劇場で上映される機会は激減していく」と予測し、一方、このトレンドの中で最も利益を得るのは「配信ビジネスであることに間違いない」と断言しました。

今回のアカデミー賞の結果は必然の流れとも言えます。あくまでも、主役は作品そのものや作り手、演者であることに変わりはありませんが、作品が世の中に出るカタチが今大きく変わりつつあることを実感させられるのも事実です。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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