アップルの「オスカー勝利」を深読みしたいワケ 複雑化する映画ビジネスと「収益を上げる配信」

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フランス映画『エール!』をリメイクした『コーダ あいのうた』は聴覚障害者の家族の中で唯一の健聴者である少女が家族に新たな夢を与えるストーリー(写真:GAGA)

この話題作を手元のスマホやスマートTVでさっそく見ようと確認しても、実はApple TV+にラインナップされていません。他国では同サービスを通じてすでに配信されていますが、日本では劇場でのみ公開されています。なぜ国によって違いがあるのか。ざっくり言うと、純粋なアップルオリジナル作品ではないからです。

監督賞はNetflix本気の映画が受賞

世界的には『コーダ あいのうた』はApple TV+作品として認識されています。運営するアップルも受賞後、ワールドワイドビデオ部門責任者であるザック・ヴァン・アンバーグが「世界をひとつにする映画の力を思い起こさせる作品になった」などとコメントを発表し、エミー賞の栄誉に感謝の意を述べています。アップルとしても思い入れがあることが伝わってくるもので、巨額の予算を投じた作品でもあります。

ただし、アップルは作品完成後に配給権を購入した経緯が事実としてあります。アカデミー賞の前哨戦と言われるアメリカのサンダンス映画祭で上映された後に交渉し、約26億円で落札したと言われています。手に入れたものの、配給の条件はアップルにとっては厳しいものに。制作段階から投資した作品ではない場合、一般的に不利になりがちで、全世界独占配信の条件は得られなかったのです。そのため、日本を含むごく一部の国では劇場公開されています。なお、日本国内の配給権はGAGAが持っています。

こうした複雑な事情はありながら、アップルにとって今回のアカデミー賞での作品賞受賞は作品を手に入れた金額以上の価値を得たはず。配信系スタジオとして、オリジナル映画製作を積極的に進めていく可能性は十分に考えられます。

配信系スタジオといえば、代表格にNetflixがあります。今年も作品賞こそ逃しましたが、Netflixオリジナル映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェーン・カンピオン監督が監督賞を受賞し、映画ファンも納得のクオリティーの高い作品で評価を受けました。今やワーナーやパラマウントと並ぶ規模でオリジナル作品に投資するNetflix。配信作品全体ではディズニーよりも予算をかけています。

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