法人税減税、実をとった財務省と総務省 法人税改革決着の舞台裏を検証する

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税率引き下げの恩恵が受けられる大企業には、その代替財源としての課税ベースの拡大は求めやすい。しかし、税率引き下げの恩恵が中小企業にほとんど及ばない中で、赤字法人が多いとされる中小企業にも税負担を求めるような課税ベースの拡大を行えば、中小企業を狙い撃ちにしたかのように増税となってしまう。いわば、「大企業は減税、中小企業は増税」となると、経済界はまとまらない。

外形標準課税の適用拡大で一致した総務省と財務省

そうなると、法人税改革の具体策は、なにかと大企業が対象とならざるを得ないことが、今回の議論の背景にある。しかも、外形標準課税は大企業にだけ適用されており、法人実効税率の引き下げと引き換えに、外形標準課税の適用拡大も求めやすかったのだろう。

税率引下げと課税ベース拡大の効果がどの企業にどう及ぶかは、本来注意深く分析して、改革策を取りまとめるべきものだ。税制改正論議の経緯を見ると、首相官邸サイドは税率引下げに強くこだわったが、課税ベース拡大策にはあまり関心がなかったフシがある。官邸サイドは税率引下げで手柄を上げた。

他方、外形標準課税の適用拡大は総務省がいわば「悲願」としていることであり、これを実行すれば地方の法人事業税(所得割)の税率を下げることで国と地方を合わせた法人実効税率が下げられるので、国の法人税率をそれだけ下げずに済むという財務省の思惑もある。外形標準課税の適用拡大は総務省と財務省はともに認めていたと言ってよい。両省は、課税ベース拡大のところで実をとった。

2015年度の税制改正大綱は、以上のように決着したが、2016年度改正においても、課税ベースの拡大等により財源を確保して、2016年度における税率引き下げ幅の更なる上乗せを図ることがうたわれた。さらに、その後の年度の税制改正においても、引き続き、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続するともしている。

したがって、今回取りまとめられた法人税改革は、第1弾であって、最終形ではない。始まったばかりの今年も、法人税改革の議論はさらに続く。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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