『文藝春秋』とアジア太平洋戦争 鈴木貞美著
戦前戦中、菊池寛そして文芸春秋はいかなる考えのもとに出版活動を続けたのか。菊池寛が書き続けたエッセイ「話の屑籠」や企画された座談会などから、当初は大陸膨張策に批判的だったが、徐々に時の権力に迎合していく様が明らかにされる。とはいえ戦後左翼が戦争責任を追及したほどには事態は単純ではなかった。婉曲な権力批判も多々あったし、検閲でページ切り取りを余儀なくされることもしばしばだった。
特に文春は時代の「雰囲気」から離れては存在しえない。「六分の慰安、四分の学芸、そして常に中庸を行く」菊池寛の姿勢が「聖戦」に寄り添うのは必然だった。ついには「戦争の狂気に『理性』を与えようとして近衛文麿と心中したような」結果となった。もっとも一出版社の話というよりも、横光利一、林房雄、三好達治、芥川龍之介、小林秀雄ら戦時下の
作家に多くの紙数が割かれた異色の戦時文学史の色彩が濃く、読み応え十分だ。 (純)
武田ランダムハウスジャパン 2310円
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら