【産業天気図・保険業】損保、生保とも国内市場の成熟化と不振で売り上げ低迷が続く

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縮小

今来期の保険業界の天気は、損害保険、生命保険とも「くもり」が続きそうだ。
 まず損保業界は、2004年度決算でも上場損保8社(1社は持株会社のミレアホールディングス)がすべて黒字を確保する見通しで、「晴れ」と言いたいところ。だが、収益面では、前期大きな押し上げ要因となった株式売却益が減るため、経常黒字額がそろって大幅減少となる(今期から持ち合い株売却を本格化するニッセイ同和損保を除く)。合併を契機とする人件費、物件費などの合理化効果は引き続き出るが、徐々にその効果は縮小する傾向。自動車保険を中心に損害率も改善方向にあるが、今期は自然災害の増加で、その効果が相殺されそうだ。
 この事業費を中心とする経営効率化進展余地や合併効果の縮小に加え、損保業界にとって苦しいのは、国内市場の成熟化ないし低迷傾向が鮮明化していることだ。特に売り上げの半分を占める自動車保険では、8月発表の第1四半期決算でもニッセイ同和、日本興亜損保の2社を除く全上場損保がマイナスに沈んだ。
 そのニッセイ同和も1.7%増と前年同期の3.2%や2003年度通期の2.5%に比べて成長は大きく減速している。日本興亜のそれは、健闘しているとはいえ、わずか0.2%増にとどまる。それほど高い計画を立てていない社が大半ではあるものの、その計画に対しても明らかに弱い年度スタートとなった。自動車保険に関しては、通期でも連続のマイナス成長となる公算がますます高まっている。医療保険や賠償責任保険など成長分野への取り組みの成果は、その売り上げ増の形で現れてはいるが、自動車保険のマイナスを補うにはまだまだ力不足というのが実態。この基調が来期も続く可能性が、残念ながら高いと言わざるを得ない。

一方、生保会社は、上場企業が太陽生命と大同生命を傘下に持つT&Dホールディングス1社であるため、中間決算前の今、その詳しい収益状況を語るのは困難な状況にあるが、基本的には損保同様、収益面では最悪期を脱していても、契約面では厳しい状況が続いている。
 全生保42社合計の4~6月の新契約高は、11%減と依然マイナスが続いている。解約・失効率は予定利率引き下げ報道に揺れて大きく悪化した前年同時期に比べて下がり、落ち着いているが、保有契約高も依然今年6月末で前年同月末比4%減と縮小が継続中。その原因は、国内大手が主力としてきた死亡保障市場が、働き盛り世代人口の減少などで構造的縮小サイクルに入っているためだ。この背景には少子高齢化の進展や団塊世代の高齢化等があり、ちょっとやそっとでは解消できない問題だ。
 利益面では、前期は株価上昇もあり、逆ざやと巨額の株評価損の二重苦に喘いだ最悪期を脱出したが、2004年度の収益が、その延長線上で一本調子に伸びる状況にはない。
 高予定利率の過去の保険契約は徐々に満期を迎えるが、そのペースは緩やか。運用利回りは、長期国債の緩やかな上昇トレンドはあっても、高利率の過去の国債等が満期更改で落ちる影響のほうが大きく、逆ざや負担の短期解消は難しい。他方、この逆ざやを埋め合わせてきた費差益が価格競争から縮小。最後の頼りの巨額の死差益も、ベースとなる保有契約高の縮小傾向を受けて今後は漸減基調が避けられそうにない。
 結局、生保が「晴れ」に転じるには、新契約が伸び、保有契約高が反転する必要があるが、それは成長市場の医療保険や介護などの第3分野、個人年金保険をどれだけ伸ばせるかにかかっている。そこでの実力がミクロの生保各社の勝ち負けを左右するといえそうだ。ただ、ここでも総じて言えば、医療保険で躍進するアリコジャパンやアメリカンファミリーの好調に比べ、国内系大手各社の不振の色彩が今しばらくは続く可能性が高そうだ。
【大西富士男記者】


(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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