中でもいちばん残念なのは、私は結婚してずっと、毎日欠かさず実家に電話を入れました。「何か、困ったことはない?」。返事は決まって、「大丈夫、何も変わったことはないよ」。
母は体調の悪いときも身体に変調が起こったときも、私に心配をかけないために、いっさい何も言ってくれなかったのです。きっと思うように動けない娘に、心配をかけまいとしたのでしょう。私が普通に実家に通ってさえいれば、病気は手遅れで発見されることもなかったし、やってあげられることもいっぱいあったのに……。取り返しがつかなくなってから、優先順位を間違えて行動していたことに気付くのは、とても辛いことです。
一方、私の米国にいる友人は違います。私と同じ年で、研究生活のために米国に渡り、そこで結婚しました。彼女は日本にいる老母の病が悪くなったときに一度見舞っていますが、その後は葬儀にも帰ってきていません。亡くなって帰っても意味がないし、命日も忘れたとさばさばしています。
彼女が特別にクールだとか、親への情が薄いというのではありません。彼女は独身時代、私ができなかった母娘旅行などいろいろ親とのよい思い出がいっぱいある人で、とても身内に情の深い人です。私ともっと違う点は考え方です。「子供が元気で暮らしていることが、いちばんの親孝行じゃないの?」(もともと親に薄情な子供が、この言葉を錦の御旗に、ますます薄情に走らないか心配ですが、もちろん各親子の関係性や考え方、バランス感覚などによりけりです)。
外国に生活基盤を置くと決めた者がくくるべき覚悟のようなものを、彼女にみました。そのときどきに一所懸命であったなら、あとは思うようにいかなかったことを、いちいち振り返って悔いても意味がない、親も理解してくれているはずだという考え方です。
娘が恩返しをしていないと悔いるほどには親はそんなことは期待していないでしょうし、私もこの友人の考え方の方が正しいと思いますが、なかなか持って生まれた性分は直せません。最後はどんな考え方がご自身にもっともしっくりくるか、納得感が高いかの問題であるとも思います。
しばらく日本に滞在し、両親を助けましょう
春山様の場合は、友人と私のどちらのタイプですかと問う以前に、このままだとお母様が倒れる心配があります。そのあとは私のように、長く自責の念を引きずるかもしれません。
もしそうなると思われるならいっそのこと、ご夫君が勧めておられるように、お父様が入院できるチャンスを得られるまで、長期滞在者用のビザでしばらく、日本で両親を助けるという選択肢はどうですか。私の苦い体験から、そう申し上げます。
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