シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略 レイチェル・ボッツマン、ルー・ロジャース著/小林弘人監修・解説/関 美和訳~「脱所有」による新経済システムを提唱
本書は第十章に見事な要約がされている。「消費者のマインドセットを変える」と題された節では、「世界は自己破壊的な成長の道を辿りつづけた」と現代を批評し、「コラボ消費が新製品の数やそれに使われる原材料を減らし、今までと違った消費者のマインドセットをつくりだす」という。「コラボ消費」とは、消費者が自分一人だけで消費するのではなく、一つの製品を貸すことで何度も使う、死蔵されている商品やスペースを欲しい人に売る、預けるなどにより、多数が共同して長期的に使い続ける消費のことを指す。
コラボ消費の一例であるサンフランシスコの「ブレインウォッシュ」では、陰気で居心地が悪いとされているコインランドリーにカフェを併設し、音楽ライブやコメディショー、飲料や宿題のできる場所などを提供することで、自宅より楽しい場を作り出した。「消費者を変えようとするのではなく、システム全体を変えた」ことに成功の秘密があると著者はいう。
また「評判の口座」という節では、「カウチサーフィン」という、余った部屋に見ず知らずの人を泊めるためのサイト開設者の「本当にすごく気をつけて人と接する必要がある」という言葉を載せる。部屋を貸す側も借りる側も節度を持って付き合わないと個人の悪評が世界中に知れわたるのだ(そのまた逆も)。
最終節の「歴史的なターニングポイント」では、「金融の世界が従来の銀行からソーシャルレンディング市場へ、さらに新しいヴァーチャル通貨へ進化する」「食の世界では、食品生協の利用者が急増し、地域が支える農業プログラムが三倍になり、自分の庭をシェアする人々もいる」「人々が自分の余剰キャパシティ(自動車、エネルギー、スペース、スキルなど)を売ることができるP2P(個人対個人)市場は、第二の収入源」となり、「モノの再配分やスワップ(物々交換)はモノを捨てるのと同じくらい自然な習慣になる」と結論づけている。
本書を貫く思想は「コミュニティへの欲求」「意味ある活動への欲求」であり、「脱所有」を根底とした、持続可能な新経済システムを「再構築」する意識「革命」の呼びかけである。
例示されているさまざまなサイト、たとえば「ビクシー」(モントリオールの自転車レンタル)、「リフトシェア」(ロンドン市内の自動車ライドシェア)、「エアビー&ビー」(空き部屋短期貸し)など、読み進むうちに実際に利用したくなった。
巻頭の「イントロダクション私のものはあなたのもの」、巻末の「日本語版解説」には全体を俯瞰する丁重な説明があり、これらも理解の役に立つ。
Rachel Botsman
ビジネスコンサルタント。オックスフォード大学で美術の学位修得後、ハーバード大学大学院に学ぶ。ブランド力、イノベーション、サスティナビリティを横断する分野で活躍。
Roo Rogers
アントレプレナー。ニューヨークのレッドスカウト・ベンチャーズ代表取締役。コロンビア大学で文学士号、ロンドン大学経済学修士号を取得。企業戦略、ベンチャーキャピタルの専門家。
NHK出版 1995円 305ページ
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