中野 金融庁の「金融モニタリングレポート」は、銀行融資にも言及しているのですが、地方銀行の与信能力に対して疑問を投げかけています。金融庁の監督方針も、これまでは不良債権比率を重視していましたが、その管理は個別銀行に任せ、与信の力を見るようにするということです。
これまで地方の金融機関は、信用保証協会の保証付き案件や、十分な担保力のある案件ばかりに偏重した融資を行ってきましたが、これに対して金融庁は明らかに「ノー」を突き付けていて、これからは融資先企業が行っている事業の成長性や、事業が持つ価値を判断したうえで融資を行うことを求めています。
地銀も個人も、成長に目を向けおカネを使う必要性
藤野 今、起きていることは非常に明確で、企業にしても銀行にしても、あるいは運用会社にしても、もっと「成長」に目を向けようということなのです。そのため、たとえば直接金融の世界では経産省が取り組んでいる「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトがあります。
その最終報告である伊藤レポートに基づいて、企業と投資家の対話を高めるためのスチュワードシップコードが取り上げられ、上場企業にはROEを重視した企業経営が求められるようになりました。そして、地方銀行は広い意味で、こうした動きとつながっていて、預金を通じて集めた資金を適切に使い、上場企業の卵でもある未上場企業も含めて、成長資金を提供する役割があります。
渋澤 私は、伊藤レポートのプロジェクトメンバーとして参加しましたが、藤野さんの考えに同感です。日本の個人金融資産に占める現預金の比率は53%。これに対して米国が13%で、ユーロ圏が35%です。米国はまさに資本主義の総本山ということもあるのか、現預金に比べて株式や投資信託の比率が非常に高く、ユーロ圏は日本と米国の中間くらい。仮に、日本の個人金融資産に占める現預金の比率が、ユーロ圏並みに低下すると、約300兆円のマネーが、現預金以外の資産クラスに移動することになります。
ざっくり言うと、日本の個人金融資産に占める株式・出資金と投資信託の比率が、併せて14%です。一方、ユーロ圏が24%ですから、両者の間には10%のギャップがある。もし、日本の個人金融資産に占める株式・出資金と投資信託の合計額が、ユーロ圏並に引き上げられれば、金額的に160兆円程度の資金が、資本市場に流れ込むことになります。2014年9月末時点で、日本の個人金融資産が保有している株式・出資金と投資信託の合計額は242兆円ですから、ここに160兆円が時間をかけて流れ込んだとしても、その効果は、非常に大きなものになるでしょう。
藤野 日本の個人金融資産はほとんどリスクを取っていない。米国はかなり高いリスクを取っていて、ユーロ圏はマイルドなリスクを取っている。その意味で、日本の個人金融資産は徐々に、ユーロ圏並み程度のリスクを取るようになっていくというイメージですね。確定拠出年金やNISAなど、個人の投資を促す制度が充実していくことで、徐々に日本の個人も現預金以外の資産クラスに目が向いていけば良いですね。
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