第2に、財政健全化を経済成長に依存しすぎるのは、危険なギャンブルとなることである。公債残高対GDP比が低下すればよいといえども、先の図のように、名目経済成長率が約2%になる「参考ケース」では、追加的な歳出削減や増税を含む税収確保を行わなければ、2020年代に向けて公債残高対GDP比が上昇する試算結果となっている。
名目経済成長率について、「経済再生ケース」と「参考ケース」の差は、わずか1%強である。つまり、「経済再生ケース」で公債残高対GDP比が低下したというのは、十分な余裕をもって下がっているのではなく、紙一重で下がっていただけだったのである。
もし名目経済成長率が「経済再生ケース」ほど高くない結果になってしまったら、公債残高対GDP比が下がるどころか、逆に上がってしまうのである。公債残高対GDP比が上昇してしまうと、ますます国債金利の上昇圧力が将来的に強まることになる。こうした風任せ的な形で公債残高対GDP比が下がったり上がったりするようなギャンブルに賭ける余裕は、日本の財政にはない。
第3に、わが国の財政における歳出構造や税制の解決すべき課題から目を背けることである。社会保障費は、高齢化の進展とともに増大するが、すべてを現状のまま増やしてよいわけではない。
例えば、患者への過剰投薬や頻回重複受診をなくせば、医療の質を下げずに給付を抑制できる。これは一例に過ぎないが、社会保障改革は真剣に取り組むべき課題として残されている。しかし、名目経済成長率さえ高くすれば公債残高対GDP比が下げられるから、それ以上歳出削減に手を付けなくてよい、となれば、こうした問題はそのまま放置されてしまう。
歳出削減と税収確保の具体策提示を
わが国の税制においても、所得税や法人税において、グローバル化や格差是正に対して的確な対応ができておらず、さらなる改革が必要だ。そして、世代間で税負担を分かち合うには、所得税より消費税が適しており、消費課税へのシフトが欠かせない。こうしたさらなる税制改革も、名目経済成長率さえ高くすれば公債残高対GDP比が下げられる、として手を抜いてしまうことが懸念される。
現時点でこう言ってしまうのは、杞憂かもしれない。否、杞憂であってほしい。しかし、12月22日の経済財政諮問会議での議論は、「名目経済成長率さえ高くすれば公債残高対GDP比は下げられるから、公債残高対GDP比を重視すべきだ」という方向へ向かいかねない危惧を抱かせる。
わが国の財政健全化は、国民にとって耳の痛い話が含まれるといえども、歳出削減と増税を含む税収確保についての具体策が伴ってはじめて達成できるものであり、そのためにも2020年度の基礎的財政収支の黒字化は、堅持しなければならない目標である。そして、その目標達成のためには、経済成長に過度に依存することなく、堅実な形で、歳出削減と増税を含む税収確保についてコミット(約束)しなければならない。
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