明治天皇という人 松本健一著
史上ただ一人、大帝と称された明治天皇の生の声や内面を知りうる記録はごくわずかしか存在しない。限られた人たちとしか接触がなく、神格化による妨げもあった。だが本書は多くの資料を渉猟し日本近代史の豊富で精緻な知見で肉付けすることで、明治天皇の人物像を解明し、時代の中に位置づけることに成功している。明治という名の日本を形作った大久保利通や伊藤博文など多くの政治家たちを一方の主役にして、天皇の人間的魅力、感情や思いが鮮やかに表出される。
統治の王としての自覚の熟成、明治国家形成へのかかわり、日露戦争を望まなかった経緯、写真嫌い、大逆事件への対応など時代に翻弄されながらも強い意志を貫こうとした稀有の存在が、極めて人間的に描かれる。個人的な好き嫌いの章をはじめ多くのエピソードの中で天皇制というシステムが浮かび上がり、改めて明治という時代の重みと現代的意味を知る。446ページの大冊である。(純)
毎日新聞社 1995円
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