「独服」によって自分と向き合う時間を作る--『茶』を書いた千宗屋氏(武者小路千家家元後嗣)に聞く

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 ただし、「独服(どくふく)」という言葉もある。自分のために自らたてるお茶のことだ。それは自分を見つめることにつながる。慌ただしい日常を過ごす中で、つかの間茶碗を手に持って自分と向き合う時間にするのでもいい。この独服は、掛け軸を掛けて着物に着替えて茶室でお点前(てまえ)をすることではなくて、日常の生活の中で、たとえばポットからお湯をくんでお茶をたててしばし座って飲む。そういう時間を過ごすだけでも日常の流れから自分を切り離すことができる。これは最小限のお茶だが、その中でも自分と向き合う時間を作れる。

──いす席のデザインもしていますね。

お茶での振る舞いは、その時代にどういう生活が行われているかに関連してくる。現代では、その一つのあり方としていす席が考えられる。私自身もデザインしている。逆転の発想で、このテーブルを置けばどこでもお茶の空間になる。茶室を造ることは恵まれた人しかできない。利休以前の時代に立ち返ると、茶室というものはなかった。書院や、日常客を招く部屋に茶道具をしつらえて、お茶の空間を作った。現代なら応接間でお茶をする。生活空間の場をお茶の場に再編成するのも一法だろう。茶室が建てられる以前のお茶はそうだったのだから。そこに先祖帰りしつつあるともいえる。

──茶の湯にも流派があります。

極端にいうと、個人の集積で、それが家という単位になり、流儀という流れになっている。個人が違うように、個人によってお茶は違う。その積み重ねがそれぞれの差になっている。違いを作ろうと無理に作ったわけではない。

──江戸時代は石州流がもてはやされました。

千利休から始まる千家のわび茶はデモクラティックすぎた。にじり口をくぐった茶室内では皆が平等、お茶の世界はある種治外法権だとか、独特の価値観があって、利休はそれをフルに活用した。

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