紫波町はもともと財政基盤が脆弱だったにもかかわらず、1997年にさまざまな公共施設と住宅を集約するため、町の中心部の駅(紫波中央駅)前の土地11.7ヘクタールの駅前を、28.5億円もの大金をかけて購入します。
しかし、あとから振り返ると、この年が税収のピークでした。翌年からは減収となってしまい、開発計画がすべて頓挫してしまいます。つまり土地を買ったら、建てようと思っていた施設建設の予算がなくなった、というまったく笑えない状況に陥ったわけです。そして、その土地は開発できずに、日本で最も費用がかかる高い「雪捨て場」として、10年来活用されていました。しかもこれを決定した町長は選挙で負けて退陣してしまいます。
この状況だけ見たら、もはや誰でも諦めてしまいそうな悪夢のような話です。万事休す、です。
しかし、このあとに就任した町長(藤原孝町長、当時)をはじめ、関係者は諦めませんでした。購入したその土地を「役所が開発するのを諦め、民間に任せて開発することを、公民連携事業として推進する」という決断をし、紫波町公民連携基本計画を策定。そのプロジェクト名は「オガールプロジェクト」と名づけられました。すなわち、塩漬け同然で雪捨て場だった土地を、カフェやマルシェ(市場)、子育て支援施設、図書館、運動場、ホテル、さらには先進的なエコ住宅の分譲までを行うという、一大再生プロジェクトです。この公民連携の考え方は、2014年2月に就任した熊谷泉・現町長や、職員の皆さんに共有されています。
「民に任せる?」「行政の仕事放棄だ!」当初は非難続出
オガールプロジェクトをすすめるにあたっての大前提は、「行政にお金がないなら、民間開発に切り替えて、金融機関から資金調達して公共施設と民間施設両方の開発を進める」という方針です。
しかし「そんな開発形式は聞いたことがない」、地元からは「行政がやるべきことを放棄した」「そんなうまい話は無理だ」、といった反対論が続々と出てきました。
紫波町の行政・民間の協働チームはあきらめずにプロジェクトと向き合います。民間金融機関から資金調達をするためには、「貸したカネが金利をつけて返ってくる」「投資した案件が、継続的な仕組みで稼いでくれる」という見込みがなければ、出してくれません。
前出のように、紫波町は人口3.4万人にすぎません。しかし、プロジェクトを進めるにあたっては、発想の転換がありました。その象徴がプロジェクトの中核施設「オガールプラザ」にある図書館です。
知恵を絞って、従来の発想から抜け出た斬新な図書館をつくることになり、「年間でのべ10万人以上は訪れてくれる」という仮説を立てました。
ここからが大事です。図書館は公共性のある施設ですが、民間的な視点からすれば「大きな集客装置」と見立てることができる、と発想を転換したのです。
誰も来ないような立地には店を出したくないですが、年間10万人以上がやってくる施設の内部に店を出せるのであれば、出したい人はいます。それなら、主要施設部分である図書館は無償で開放しつつ、そこを訪れる人達に、カフェやクリニックや生鮮食品の販売をする民間テナントから家賃や管理費を集めて、そこで稼ごうと考えたわけです。
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