北朝鮮、「国家が全企業の面倒は見られない」 独立採算制企業を奨励

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そうすべき理由として、同論文では「対外環境の変化」を理由にしている。それは、「1980年代末から1990年代初頭、世界の多くの国で社会主義が崩壊し、社会主義市場がなくなった条件において、資本主義市場を相手にしなければいけなくなり、そうしようとすれば輸出構造から取引方法に至るまでかかる問題が少なくはなかった」と対外環境の変化に対応できなかったことを率直に認めている。

そして「資本主義市場を対象にして必要な物資を購入し経済建設を進めざるを得ない条件で」各企業所という現場での生産性を高めることが、現在の経済状況では重要と強調している。

国家が報酬などを保障することが難しくなった

この点については、北朝鮮の朝鮮社会科学院経済研究所の李基成(リ・ギソン)教授がすでに2013年9月、東洋経済など日本メディアとのインタビューにおいて、独立採算制など企業活動が広がる中、「国家がすべての企業所や工場を管理し、彼らに対する報酬などの保障が難しくなった」との経済認識を示したことがある。

だが、この論文では「下部単位の創発性を強化すると言いながら、国家の中央集権的指導を無視し、企業の自由を主張する偏向が絶対に生じないようにすべき」と触れたり、「われわれには資本主義社会ではまねのできない、また持つこともできない社会主義計画経済の優越性、集団主義の優越性があり、それを円満に実現するための国家の統一的指導がある」と述べるなど、あくまでも社会主義経済体制を固守する姿勢も示している。

核やミサイル問題で国際的な経済制裁が続く状況が続いているが、現実を見据えた企業活動を行うという内容の論文が、これまでも出てきている。社会主義を枕詞に話が進む北朝鮮において、現実を見据えるのであれば市場経済のやり方も受け入れるために、着々と理論武装をしているようにも見える。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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