アマゾン、セブンの寡占化が進む理由 すき間時間を切り売りする時代が来た

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──「時短ビジネス」は以前からありました。

時短ビジネスは一握りの企業が勝つということになりやすい。アマゾンやセブン―イレブンに勝てるところはないとすれば、寡占化する。もともと、時間は節約しなければいけないという問題と、節約してできた時間をどう有効に使うかとは、別の価値の話だ。節約したことでできた空き時間をより有効に使ったり、自分が好きなことをしたり、自分の大事な人と過ごすことで、また新たな価値が生まれる。

時間資本主義においてはアマゾンやセブン―イレブンは巨大なインフラ企業になっていくのだろう。時短を生み出す企業が圧倒的なシェアを持っていて、一つの世界を作っていく。それ以外の会社は、そのインフラをサポートするか、創造的な時間価値を提供する。節約時間価値と対極にあると思われる創造時間価値において無色透明な時空が生まれるからだ。

──創造時間価値?

節約することで生まれた時間をどのようにクリエーティブに使うかで人生に彩りができる。ここにもビジネスチャンスがある。創造時間価値には好みの問題が大きくかかわる。たとえば人によって好きな食べ物は違う。好みの世界ではいろんな勝ち組がありうる。中堅企業、場合によっては個人事業主といった小さい事業者も生きていけるような世界になっていく。

中間層の質が高くないと成り立たない

──アマゾンはまだ13カ国での展開です。

時間資本主義はインフラが正確に動いている国での議論なのだ。時間効率を高めようといっても、移動手段や物流が発達していない国では難しい。先進国の中でも中間層のクオリティが高い社会でしか成り立たない。都市化が進んでいて時間価値がすでに高く、それをさらに高めていくことで、よりよい生活や人生を作ろうという際に発達する。

──時間資本主義時代は「職住近接」が進むのですか。

たとえば米国のシリコンバレーには優秀な人が集まってくる。空港から遠いし顧客は東海岸。時差もあって不便な場所といっていい。だが、そこに情報があるから集まる。情報交換をすることで新しいビジネスが生まれていく。そうすると、また新しい人が入ってくる。こういう複雑系的な構造といえる。

──この本では軽井沢を特筆しています。

『時間資本主義の到来』 草思社(1400円+税/253ページ)

クリエーティブな人が集まる。目的なく集まって話をするためにだ。ただ、同じような人たちでつるんで新たなインナーサークルを作ったのでは、創造性はなくなる。人が入れ替わり立ち替わり流転しているのがいちばん強いのではないか。トータルパッケージで時間価値を提供できるかどうかにかかわってくる。

──ほかに顕著な現象は。

現在の二極消費もこれで読み解ける。ユニクロが伸びる一方、伊勢丹で高い買い物をする人も多い。お金持ちでも消費において時間価値を重視するから、時間価値の二極化が消費の二極化に反映している。時間価値が新しい価値基準に入っている証拠だ。

時間資本主義の時代は時間が大切になるから、負の時間を少なくしようという単純な時代ではない。負の時間を少なくするすべがどんどん供給されればされるほど、それによって生み出される無色透明な時空を、どのように実りある時空に変えるかが従来以上に問われる時代なのだ。

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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