そういった影響もあってか、2013年の前半ではすでに実質GDPの成長率が陰りを見せ始めていましたし、国内の景気を見るうえで重要な目安となる自動車販売も低迷していたのです。ロシア国内の自動車販売は2010年から前年同月比で平均10%超の伸びをみせていたのですが、2013年3月以降は、前年同月比でマイナス続きのトレンドとなっています。
このまま原油や天然ガスの価格が低位で恒常化し、ロシア経済がなし崩し的に失速するならば、抑圧された国民の不満は徐々にプーチン体制に向かう可能性があるのではないでしょうか。大都市の中間層が起こした反プーチン運動が再燃し、それが広範な大衆を巻き込んで全国規模の民主化デモへと発展するならば、プーチンの政権基盤は一気に揺らいでしまいかねないのです。
従来のロシアは資源外交を展開し、とくに中東欧諸国に対して政治的圧力を加えてきたのですが、2013年の段階からシェール革命の余波により、その影響力は明らかに弱まってきていました。そして、それを決定的に、そして不可逆的にしたのが、クリミア内戦のどさくさでロシアが行った「クリミア併合」であったと言えるでしょう。
資源外交は風前の灯、世界への影響力は確実に低下
クリミア併合を機に欧米とロシアで経済制裁合戦が始まった時に、私は「プーチンはここまで愚かな指導者であったのか」と驚かざるをえませんでした。というのも、その時の私の脳裏には、将来の原油価格の下落と相まって通貨ルーブルの暴落が起きて、ロシア国民の生活がインフレでひどく疲弊するだろう、という光景が思い浮かんだからでした。
ところが誤算だったのは、WTI原油価格が70ドルまで下落してきても、OPECによる減産の対応がなされなかったということです。そのために、下落のペースが予想していた以上に速くなり、ルーブルの暴落までもがこんなにも早く起こってしまったわけです。
いずれにしても、プーチンの資源外交はもはや風前のともし火となっています。中東欧での影響力の低下を補うため、このところ急接近しているベネズエラ、ボリビア、イラン、イラクなどの国々も原油価格の急落によって経済がガタガタになってしまっているからです。これらの国々もまた、ロシアと同じ境遇にある資源輸出国であり、世界で競争力を持つ産業を育てることができていないという点で共通しています。
世界的なエネルギー資源の高騰で、思いがけない繁栄を謳歌してきたロシアですが、それに安住しすぎた結果として、兵器産業以外には競争力のある産業が育っていません。ロシアの、世界に対する政治的かつ経済的な影響力は、長い目で見ると確実に低下していくことになるでしょう。
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