進むも退くも地獄、追い込まれる黒田日銀 2015年、日銀は「アウェイ」の戦いに

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そして、その政治家たちは、選挙を終え、もはや、日銀にもGPIFにも関心を失った。株価を上げる、打ち出の小槌としての役割は終わったからだ。そして、GPIFはむしろ政治に見捨てられた方が仕事はしやすいので、2015年は、ひそやかに政治の影響を排除しつつ、まともな運用を取り戻すように動くことが可能となる(実際に、その必要性を理解しているメンバーがGPIFにどれだけいるかはわからないが)。

一方、見捨てられた日銀は、それにもかかわらず、金融市場の運命を握らされる。しかも、コントロール力を失い、手段も限定された中で、責任だけを負わされる。黒田氏も、この2年とは全く違った環境で、金融市場と対峙しなければならない。それが2015年だ。

黒田日銀には、いよいよ手段がない。進むも地獄引くも地獄だ。これ以上、国債を買うスピードを上げることもできない。

徐々に追い込まれ、窮地に立たされる国債市場

しかし、黒田理論によれば、もっとも対処すべきリスクである、足元の物価は上昇率を低下させる。手段がもうないから。動くことはできないが、動かなければ、これまでの政策との整合性は取れない。リフレ政策、あるいは期待インフレ率2%維持最優先政策を展開せざるを得なくなるが、それはしないだろう。

一方、政治は、経済政策は、日銀の緩和だけに頼り、後は何もしない、ということだから、景気は増税回避で悪くないだろうし、法人税減税という株価引き上げの最後の玉も使うだろうが、財政再建には無関心だから、国債市場は徐々に追い込まれる。

この国債市場を延命するためには、追加国債購入を止めるわけにはいかないが、どこかで、この政策もスピードダウン、方向転換を図る必要がある。

そのときは、日銀以外誰も買い手がいなくなった、あるいは日銀に買わせることだけを目的としたトレーダー以外誰もいなくなった国債市場は窮地に立たされる。もし、10%への消費税率引き上げが再度延期されるようなことがあれば、それがきっかけとなるだろう。

2015年は、日銀の年になるが、以前の攻めの2年と違って、アウェイの戦い、守り抜く年となるだろう。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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