日本の電力業界、海外展開では資本利益率とリスクコントロールに注目《ムーディーズの業界分析》

拡大
縮小


海外事業拡大は信用リスクが高まるおそれも

国内の人口減少と省エネ強化により、電力消費量を拡大できる機会が縮小していることから、海外事業の拡大は成長戦略として注目される。現在の電力会社の高い格付けは、日本の強固な規制環境がその主な要因になっている。日本の規制環境外での事業拡大は、海外での事業経験やノウハウの不足した日本の電力会社にとって、特に新興国では、原発などの投資額以上に損失が発生する可能性があり、政治リスクやテロなどのカントリーリスクなど、リスク要因ともなりうる。

一方、原発運営のノウハウ、高効率火力発電、CO2排出量の少ない火力発電技術の有効活用などが海外事業拡大のプラス要因となる。今後、資本利益率(ROC)をどうやって確保し高めていくか、そしてリスクをどのように低く抑えることができるか(日本政府や現地政府の保証を得られるか、また商社や家電メーカー、現地有力企業との提携によるリスク分散を実現できるか)などに注目していきたい。

東京電力(Aa2、見通しは安定的)は、向こう10年間で海外事業に最大1兆円の投資計画を発表した。国内の安定的かつ予測可能な規制の枠組みから、海外市場の不確実性へのシフトという戦略は、同社の事業リスクを高め、格付けにもマイナスの影響を及ぼすとみられる。

東京電力は、リスクの高い海外事業を拡大するに当たって、相対的に高いレバレッジ比率を低下させる重要性を認識しており、現在のD/Eレシオ(負債資本倍率)3.1倍を10年後には半分とする目標を掲げている。また、ROA(総資産利益率)も10年3月期末時点の2.6%から4.5%以上とする目標である。

ただし、D/Eレシオ目標の達成に当たっては、有利子負債の削減よりも安定した配当政策を維持しながらも、キャッシュフローからの留保利益を高めるとしている。非規制対象の海外事業の変動性に対しては、資本を蓄積することにより信用プロファイルを強化する方向だが、同社がこの戦略の実行で成果を上げられるかについては引き続き見守っていく必要がある。

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