「日本政治の謎」 徳川モデルを捨てきれない日本人 猪口孝著 ~いまだに引きずる鎖国時代の政策
日本は元気がない。経済に元気がないばかりか、直近では、国際政治経済における無力さから、日本は終わったのかとまで感じさせられてしまう。戦後、武力をもって世界での存在感を高めようとしたわけではないので、ローマ帝国や大英帝国になぞらえるのはおこがましいが、オランダやベネチアが繁栄の最後に感じたであろう無力感を共有しているような気もする。
本書は、日本の閉塞感の理由を、鎖国時代の政策、徳川モデルをいまだに引きずっているからだとする。世界から取り残されないためには、徳川の遺産を捨て、世界標準語である英語を物にし、世界を動かす日本人になれとエールを送る。参照されるのは、安土桃山時代である。
織田信長とエリザベス1世は同時代人で、共通点が多々あると本書は指摘する。第1に、国内の対抗勢力、他の戦国大名、仏教勢力、商人共和国を壊滅させた。第2に、交易を盛んにし、海外技術の導入を図った。第3に、強いリーダーシップを振るって改革に邁進した。当時、物資流通の妨げとなっていた関所には、鉄砲隊を送ってどんどん壊していった。
江戸時代には、そのようなダイナミズムは失われる。徳川時代は、鎖国、個人の存在意義のなさ、「隣百姓」で特徴づけられるが、グローバリズムの中で、それではやっていけないと説く。
日本の未来を信長の力で展開することができなかったのが残念という。信長は、日本を治めるという夢のために、夢中になって考えた。刀や槍に代えて、海外の技術を取り入れた鉄砲を用い、戦術を変えた。隣の人と同じことをしているだけでは、世界を切り開いていくことはできないからだ。
確かにそのとおりと説得されるが、残念ながら日本全体はそうなりそうにはない。
いのぐち・たかし
新潟県立大学学長兼理事長、東京大学名誉教授。1944年生まれ。東京大学卒業後、米マサチューセッツ工科大学にて政治学博士号を取得。東大東洋文化研究所教授、国際連合大学上級副学長、日本国際政治学会理事長、中央大学法学部教授などを歴任。
西村書店 1575円 193ページ
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