千田:私が新入社員のときに、アメリカ本社から役員が来て講演をしたことがあったんですね。そのときに北岡さんが「英検1級を持っている千田君という新入社員がいるだろう。お、君か~。じゃあ、通訳して」と言ってきたのです。
安河内:うわ~、ムチャブリですね~。
千田:でしょ? いきなりすぎてね、頭の中が真っ白になりました。でも、何とかやり終えたら「千田君、頑張ったけれど、3カ所間違いがあったんで訂正させてもらいます」って北岡さんに言われました。
「訂正するなら最初から自分でやってくれよ」と思いましたけど、役目を終えて自分の席に戻るときに、先輩社員から大拍手をもらってね。すごい自信になりました。
TOEIC発案者の北岡靖男氏とTOEIC伝道師の誕生
安河内:ここでちょっと読者の方に、故北岡靖男氏がどういう方だったかを説明させてください。北岡さんは英語教育業界では日米2カ国で伝説的な人物です。「日本のビジネスパーソンにはこれから英語が必要になってくる。だから本格的な英語の試験を作らなければならない」という考えを持っていたのです。
そして、単身、アメリカのテスト機関であるETSに乗り込んで幹部を説得して、今では世界に浸透しているTOEICという試験を生み出した発案者です。ETSでも、Mr. Kitaokaという名前はよく耳にします。
千田:ETSのみなさんは、TOEIC is a brainchild of Yasuo Kitaoka.と表現してくれていますね。北岡さんの脳みその子供、つまり彼が生み出したものということですね。TOEICは北岡さんの考案したものだと認めてくれています。
安河内:brainchildという単語には人間の創造的思考や仕事の産物といった意味合いもあり、リスペクトが感じられますね。
千田:「TOEICは北岡さんの子供」と言っているのと同じですからね。私が出会った当初、北岡さんはTIME Inc.のアジア総支配人だったのです。
安河内:その北岡さんのパートナーとして、もともとは誰も知らない小さな試験だったTOEICを、日本全国へ行脚して広めて回ったのが千田先生というわけです。TOEICの生みの親が北岡さんなら、千田先生は育ての親になりますかね?
千田:朝日新聞の記者は「TOEICの伝道師」という書き方をしてくれました。本当は初代の伝道師はTOEICの専務を務められた伊東顕さんという方で、最初の10~20年、全国に広めるために尽力されたのです。私が始めたのは1990年のことで、主に大学を回りました。そのほかにも、全国を回った「伝道師」はたくさんいますよ。
安河内:私が初めてTOEICを受けたのは、大学生だった1987年です。その頃はまだ知名度の低い小さなテストで、私の周りはみんな英語の試験といえば、まだ受験英語みたいだった頃の2技能のTOEFL(現在のTOEFL ITP)を受けていました。私は英語学科でしたから、英検もTOEFLももう受けていました。新しいテストができたと聞いたので、「どんなもんかな?」と軽い気持ちで受けたのが初TOEICだったのです。今と比べたら受験者もかなり少なかったですね。
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