台湾で吹き上がる「反中感情」より強烈なもの 統一地方選で国民党惨敗。裏の敗者は中国?

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台湾の人々は、反中のために国民党を負けさせたわけではない。人気の著しい低迷が続いていた馬英九政権にとって「対中関係の改善」はほぼ唯一、世論調査でも7〜8割の人々が「評価する」と回答する項目である。台湾経済の対中依存度は日本の比ではない。中国は台湾企業の生産現場であり、市場であり、「飯の種」だ。そんな中国とケンカばかりしている民進党を嫌ったからこそ、2008年の総統選で台湾の有権者は馬総統を選んだのだった。

しかし、台湾の人々が無条件に中国を歓迎していると考えたら、それは間違いだ。中国の一党独裁政治体制への恐怖感、言論や人権弾圧への嫌悪感、中国経済に飲み込まれてしまう不安感。これらは台湾社会に根強く広がっている。何より、中国と台湾は60年以上に及んだ分断の末、中国は台湾の人々にとって「他者」になり、一方で「中国は台湾の一部」として将来の「統一」を求める中国とは、あくまで未来へのビジョンを共有していない。

中国の政策決定レベルではその点に気づいている人も少なくなく、台湾へのアプローチは、丁寧に、丁寧に進めてきたはずだった。しかし逆に、馬総統のほうが急ぎすぎてしまった感がある。馬政権の失敗は、中国とは「付かず離れず」でいることを最善とするデリケートな台湾人の対中観に反するように、中国との関係深化を性急に進めようとしたところにあった。

実を結ばなかった中国政府の労力

馬総統は、今年11月の北京APECに出席し、習・総書記との「歴史的会談」の実現を“執拗に”求めた。しかし、馬総統の足元が固まっていないことを見透かされ、中国側に「国際会議の場はふさわしくない」と拒絶されてしまう。また、3月には中国とのサービス貿易協定を立法院で強引に審議させ、「ヒマワリ学生運動」を引き起こしてしまう致命的ミスも犯した。

もちろん、今回の選挙における国民党の敗北の要因は複合的なものだ。最大の原因は馬総統自身の不人気であり、それが国民党全体に累を及ぼしたことは確かで、国民党の幹部たちからは大っぴらに「筆頭戦犯は馬総統」という声が上がっている。最初に高い人気と期待で登場した分、失望の落差が激しくなるのはオバマ米大統領と似ている。

また日本と同様、台湾でも中間層と呼ばれる特定の支持政党意識が弱い若者が増えており、長く続く国民党の天下に嫌気が指した気まぐれな世論が民進党に流れた部分もあっただろう。

ただはっきり言えるのは、これまで、「親中国」勢力を育成するために、国民党に対して、陰に陽に支援の手を差し伸べてきた中国の努力が、今回の選挙ではほぼ役に立たなかった、という現実であろう。

象徴的な例として、今回の選挙において、国民党の劣勢を救うために選挙戦終盤にフル回転し、「国民党が負ければ中国との関係が悪くなる」と叫び続けた2人の大物がいた。1人は、国民党の名誉主席で元副総統の連戦だ。彼は2005年に訪中して胡錦濤氏と歴史的な国民党と共産党の「国共和解」を成し遂げ、その後は台湾政界における中国とのパイプ役として重用され、中国の指導者に会うためには連戦を通さないと会えない、とまで言われていた。

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