一方で、支援の方法は正解があるわけではない。
「社内に制度があっても活用されていないケースもあります。職場の実情を踏まえ、使いやすい制度づくりと社内の風土醸成の両面で支援していくことが大切です」
まずは、当事者が治療のことを職場に伝えなくても、支援を受けられる体制ができると望ましい。
例えば、制度面では「不妊治療休暇」と名付けるのではなく、病気や育児、介護などをすべて含めて対象とする制度にする。すると不妊治療をしている従業員は、治療のことを会社に伝えずにすみ、休暇取得がしやすい。休職制度は、不妊治療がうまくいかなかったときに職場に復帰しづらいなど、状況によっては利用をためらうこともある。
会社が本人から不妊治療のことを伝えられた場合、冒頭のAさんのように、本人が希望しないにもかかわらず、プロジェクトから外したり、負担の軽い仕事だけを割り当てたりするのはもってのほかだ。プライバシーにも十分配慮する必要がある。
また、リモートワークなどができず、シフト制で現場に出なければならない職場はより治療との両立が難しくなる。そうした場合、大切なのは職場内で助け合う風土だ。ファミワンの不妊症看護認定看護師である西岡有可氏は、「企業の研修などでは、治療をする人やそのパートナーだけが『当事者』でなく、周囲にいる人たちも当事者の1人」と伝えているという。
「働く誰しもが自身の体調不良や子どもの発熱などで、急に休みを必要とすることはあります。妊活もそうした必要な休みの1つと理解してもらうことで、お互いさまだと助け合う空気が生まれてくると思います」(西岡さん)
妊活・不妊治療に関する研修を取り入れた東京メトロ
全社員のうち8割以上が地下鉄の乗務員や駅員、技術職など現場で仕事を行っている東京メトロでは、2018年度から福利厚生の一環として不妊治療をする従業員やそのパートナーへの支援を行っている。
中でも2020年度から取り入れたのが、駅などの現場で労務管理をする監督職が必須で受ける妊活・不妊治療に関する研修だ。専門家を招き、妊活の基礎知識や実際に取り組む人が困っているポイントなどについて理解を深める。研修を終えた社員からは、「労務管理の業務を行っていくうえでの安心材料になった」「会社の研修として学べたことがよかった」などの前向きな声が上がったという。
人事部労務課の三浦宏平氏は「研修は実際に受けた社員はもちろん、全社に対して妊活や不妊治療を支えるというメッセージ発信になります」と、社内の風土づくりへの貢献を語った。今後は全社員がいつでも学ぶことができるよう、オンラインを活用した周知や啓蒙の実施も検討している。
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