対ロシア「関税引き上げ」が一筋縄でいかない理由 最恵国待遇の剥奪は実際の関税引き上げが肝心

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ロシアの貿易相手国としては、EU(とくにドイツ、オランダ)がロシアの総輸出の実に4割以上を輸入しており、圧倒的に重要だ。また、ロシアの貿易構造は鉱物性燃料の輸出に著しく偏っており、石油・天然ガスについては輸出の半分から6割がEU向けになっている。とくに天然ガスはパイプラインの通っているところに供給先が限られ、簡単に他の輸出市場に振り替えられないことから、EUに輸出できないことはロシアにとっても痛手になるという。またEUはロシア産農産物の一大市場でもあるので、EUがこうした産品の関税を引き上げれば、その効果は大きい。

もっともEU、とくにロシアへのエネルギー依存が大きいドイツやイタリアは、石油や天然ガスの輸入制限には元々消極的だ。すでにウクライナ侵攻前にガス価格の高騰がEU内で問題となっていたが、それでもEUはロシア産天然ガス輸入を2022年末までに6割以上削減することを決めた。この後、さらに返り血を浴びながら、実際にどこまでこうした産品の関税を引き上げられるかが、対ロ制裁の実を上げるために焦点となる。

制裁の効果を狙うか国民生活への衝撃回避を狙うか

この点は日本も同じで、エネルギー(石油、LNG)、木材、非鉄金属(アルミ、レアメタル)、水産物(イクラ、カニ)などをロシアから輸入している。これらの関税を引き上げることは制裁として実効的だが、やはり国民生活へのダメージが大きい。政府はロシアをMFNから外し、実行関税率表上の基本税率を課す法律を今国会に提出するようだが、もともとこれらの産品は国民生活にとって必要な物資なので、その基本税率はMFN税率と比べて極端に高い訳ではない。

カナダのように今回の同盟国の協調に先駆けてすでに35%もの高関税を全面的に導入している国もあるが、日本ではさらにロシア向けにのみ税率を上げることは今のところ検討されていないようだ。その意味では、MFN停止という制裁の効果は限定的だろう。

こうした各国事情の違いを反映して、2022年3月12日のG7首脳緊急声明も微妙に腰が引けている。声明には、「われわれは、各国の手続と整合的な形で重要産品に関するロシアの最恵国の地位を否定する行動をとるよう努める」(下線は筆者)とあり、この限りでは一部の品目でもいいから、各国のできる範囲でMFNを剥奪すればよい、とも読める。G7声明には共同歩調の難しさが滲む。

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