しかし、黒田総裁は3月8日の参院財政金融委員会で、資源高が牽引するコストプッシュ型の物価上昇は「家計の実質所得の減少や企業収益の悪化を通じて景気に悪影響を及ぼす」とし、「2%目標の持続的・安定的な実現にはつながらない」と指摘した。
この発言からは、今回の論文はコストプッシュ型のインフレ懸念を沈静化し、金融緩和を維持するために書かれたものであるという印象も受ける。仮にそうであれば、このような屋上屋を架すような対応によって、結果的に過去の金融緩和のロジックとの整合性を失ってしまったという可能性もある。
足元の「インフレ実感」および「インフレ予想」の上昇について、黒田総裁はどのように考えているのだろうか。本音としては「チャンスだ」と考えているのかもしれない。国民の負担が増える中でインフレ高進をポジティブに捉える発言ができる状況ではないという事情もある。
「異次元緩和から脱却」模索も、動きは遅い
いずれにせよ、「適合的期待形成の打破」や「期待に働きかける効果」という異次元緩和の根幹とも言える考え方を否定するような論文が発表されたことは事実である。異次元緩和からの脱却のステップが進んでいることは間違いないだろう。
むろん、新しい総裁の下で出口戦略を進められるような経済環境になっているのかは、現時点ではわからない。日銀内で出口戦略の議論が進むことと、それが可能になるかどうかということはまったく別の議論である。日銀は出口を探りながらも、結果的に超緩和的な政策はかなり長期化することになると、筆者は予想している。
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