日本銀行はリフレ派の金融政策論を放棄するのか 予想外のインフレで政策メッセージが変化した

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政府は、7月23日に任期を迎える片岡剛士・鈴木人司両審議委員の後任として、岡三証券の高田創氏と三井住友銀行の田村直樹氏を充てる人事を衆参両院に提示した。

シンクタンク出身でリフレ派の片岡氏の後任という位置づけで、リフレ派ではない高田氏が選ばれたことが注目された。高田氏は1982年に日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行、みずほ証券やみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)で、金融市場・債券市場の分析を長く行ってきた。市場目線での金融政策分野への発言が期待される。

高田氏は著書に『国債暴落』がある。市場は高田氏を「財政健全化派」と考え、「岸田政権はリフレ派を避けた」と評価している。同氏は財務省などの政府関係の多数の要職にも就いてきた。ただし、同氏は以前から「市場・政府・日銀の三位一体の構造による安定的な国債の消化構造」を主張しており、「バランス型」である。少なくとも、同氏が日銀の出口論を強く推進することはないだろう。岸田政権がアベノミクス(リフレ政策)からの脱却を進めていることは間違いないものの、政策を急変させるまでの意図は感じない。

さらに、より重要なのは2023年3~4月に任期を迎える総裁・副総裁の人事である。黒田東彦総裁の任期終了は重要なターニングポイントとなりうるが、岸田政権がいきなり「反リフレ派」を総裁に選ぶことはないだろう。今はウクライナ戦争によって明らかに安倍晋三元首相や高市早苗政調会長といった保守派のプレゼンスが上がっていることも重要である。

安全保障の問題と比較し、重要度が劣後する金融政策の分野で保守派の反感を買うような選択肢が取られる可能性は低い。岸田首相は金融政策へのこだわりがあまりないといわれている。無難な人選となるだろう。「人事」の観点から、日銀の変化はみられないだろう。

コストプッシュ型インフレを懸念する日銀論文

さて、論文のほうである。日銀は3月2日、「わが国における家計のインフレ実感と消費者物価上昇率」と題したワーキングペーパーを公表した。日銀ワーキングペーパーシリーズは、日銀が問題意識を持っている内容が分析されることが少なくない。ましてや、今回の論文の筆者は金融政策を議論する「企画局」の所属なのである。

この論文の結論はわかりやすくいうと、「インフレ実感が上昇すると、値上げは『困ったこと』と家計は感じやすい(すなわち、値上げ許容度が低下する)」というものである。このような、これまでの日銀の金融政策スタンスを否定するような結論の論文が作成されたことは驚くべきことである。

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