韓国・新大統領が模索する日韓関係の「突破口」 高まる日本の期待、外交経験なき新トップの壁

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アメリカとの対立を強める中国の問題はなおさらである。歴史的に中国の歴代王朝の圧力にさらされてきた朝鮮王朝は、中国につかず離れずの姿勢で生き延びてきた。

しかし、世界が「民主主義か権威主義か」で色分けされ、米中を筆頭に対立を強めるときに、これまでのような米中双方にいい顔をする外交路線が今後も可能なのか。

この地域における日米韓の連携が強化されれば、中国や北朝鮮に対する圧力となり、朝鮮半島のみならず、東シナ海や台湾などを含む北東アジア地域全体の安定につながりうる。逆に文政権時代のように日米韓の関係が悪化すれば、中国や北朝鮮に都合がいいことは言うまでもない。

ウクライナで揺らぐ世界秩序

ロシアのウクライナ侵攻はこうした世界の2極化に拍車をかけている。世界秩序が大きく揺らぎ始めている。そんな時代の中、韓国の新政権は重大な岐路に立たされることになるだろう。

とはいえ直ちにすべてが動くわけではない。尹政権が本格的に外交を展開するのはしばらく先のことだろう。2022年秋には中国共産党大会が予定され、習近平国家主席の権力の永続化を目指す中国は、新たな対外政策にエネルギーを割く余裕は少ないだろう。

またアメリカでは11月に中間選挙が予定されている。ウクライナ問題はあるものの、それを除けばバイデン政権は当面、内政に比重を置いて選挙に臨むことになり、北朝鮮問題をはじめ東アジアへの関心は低くならざるを得ない。

一方、日本は一足早く7月に参院選挙が予定されている。それまでは岸田首相も内政と選挙に力を注ぐことになる。

日韓関係に限って言えば、参院選後が動く好機と言えるだろう。米中ともに身動きがとりにくい中、日韓首脳は今年後半には積極的に関係改善に取り組みやすくなる。

その際、元徴用工や元慰安婦など両国が抱える多くの問題を個別に1つひとつ取り上げて解決するやり方では、前に進むことは難しいかもしれない。尹氏が言うように「包括的に議論する」手法で、トップダウンで物事を進めていけば、最悪の状態と言われる日韓関係に光が差す可能性はあるだろう。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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