妻の姓にした夫に「もったいない」という人の心理 夫婦別姓が進まないさまざまな理由を探る

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──選択的夫婦別姓の導入が頓挫し続けた原因は何だとお考えでしょう。

選択的夫婦別姓に反対する議員は少数派ですが、彼らは「政治生命を賭けても法案を通さない」という高い熱量で取り組み、問題を膠着させてきました。

一方、賛成派議員は数でいえば多数派ですが、育児などほかにも多くのイシューを抱え、最優先で選択的夫婦別姓を推し進める人はあまり多くないといわれます。賛成であったとしても、人によって熱量にグラデーションのあるテーマなのです。また国会議員となると、地元の支持者への配慮もあるようです。

また賛成派のなかには、たとえば通称名で納税やパスポート取得ができるようにすることをゴールとする人がいます。また、現在は1つの戸籍には1つの姓だけという「同一戸籍・同一姓」というルールがありますが、これを同一戸籍内に複数の姓を記載できるようにすることで、選択的夫婦別姓の実現を訴える運動もあります。

一方、イエ制度の象徴である戸籍制度の廃止を求める立場であれば、戸籍制度の不便を改善することによって逆に戸籍制度を温存してしまうことになるのではないかと危惧する人もいるかもしれません。

このように選択的夫婦別姓に賛成といっても、目指すゴールがみんな同じというわけではないのです。そのため議論の足並みをそろえることも単純なことではありません。

結婚前に姓をどうするか話し合ってみる

──選択的夫婦別姓を一般の人が「自分ごと」にするには、どうすればいいでしょうか。

現時点では、これから結婚するというカップルでも、それほど真剣に話し合うことをせずに夫の姓にするカップルが多いでしょう。だから若い人たちには結婚前に、ぜひ姓をどうするか時間をかけてお互いの気持ちを話し合ってほしいですね。「改姓がどんなに大変かわかる?」「いや、ふつうは夫の姓を名乗るべきだろ」と、そこでけんかになってもいいと思います。

結果はどうあれ、ちゃんとけんかすることで改姓に伴う負担感や不満が男性たちにも見えるようになるでしょうし、そこに変化のきっかけが生まれるのではないかと思います。

(ライター・有馬知子)

【筆者プロフィール】
中井治郎(なかい・じろう)
:社会学者。1977年大阪府生まれ。龍谷大社会学部卒業、同大学院博士課程修了。現在は同大などで非常勤講師を務める。主な研究テーマは文化遺産の観光資源化など。著書に『日本のふしぎな夫婦同姓』(PHP新書)、『パンクする京都』(星海社新書)など。

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