2002年10月に退社。「商店街のために何か役立ちたい」と思ったものの、その活動に内部で関わった経験はない。何をするかを模索する中で、青年部の約5人が週2回、行っていた朝の清掃活動に参加してみた。人通りの少ない静かな街、「おはよう」と声をかけてくれるお年寄り――そこには子どもの頃に見た懐かしい光景があった。その時、広告マンの“DNA”が疼く。「ゴミは拾う人を増やしても捨てる人を減らさないと街は綺麗にならない。もうちょっと人が集まると楽にできるし楽しくなる。キャンペーンで課題を解決できないだろうか」と思い立った。
街の課題解決に行動するコミュニティづくり
当初は1970年代に一世を風靡した「ニコニコマーク」のようなものをイメージし、「ポイ捨てしないマークを原宿で流行らせればいいのではないか?」と考えた。コピーライターやデザイナーの協力も仰ぎ、グリーンバードの構想を商店街に提案すると、「こういうものを待っていたんだよ」と喜ばれた。アパレル店舗がTシャツの製作や売れ残りの商品を提供して協力。ナイキジャパンが作業時のビブスを寄附するのに際しNPO法人格を取得し、財源も企業からの協賛金で賄った。
参加者が楽しみながら持続的に活動できるスキームは、長谷部さんが翌年、区議選で初当選してからも注目を集め、スポンサー企業も増え、他地域にも拡大し続けた。
長谷部さんは「政治活動のためにやっているわけではない」と強調するが、人間関係が希薄で地方選の投票率が低迷する都市部にあっては、街の課題や市民の悩みを共有し、解決へ行動していくモデルとして興味深い。11年間で国内58チーム、海外5カ国で展開するまでに広がった。「(各地に)リーダーとなる人材がいたことがポイント」という。
近年、市民が主体的に行政や企業も巻き込んで社会を変革する「コミュニティ・オーガナイジング」が注目されるが、米国の市民運動を体系化したこの理論は、社会を変えるストーリー共有や自発的に活動する人間関係づくり、キャンペーンなどの戦略立案などの手順を一人ひとりがリーダーとなって取り込むことが求められている。グリーンバードもそうした要素を備えていると言えそうだ。
「声なき声を拾いたい」
長谷部さんは区議会に入ってからも大胆な提案を続ける。宮下公園の改装費約4億円を賄うために、ナイキが公園の命名権取得料と合わせて出費する取り組みや、渋谷区一帯をキャンパスに見立て、防災や介護等の多彩なカリキュラムを市民が学べる「シブヤ大学」などを仕掛けた。
「ターゲットは渋谷区民、得意先が区役所や議会と考え、そこに向けて企画を考えている」と、広告出身者らしい視点で語る長谷部さん。地域の問題や地方議会への関心を高めるためには「サイレントマジョリティーのマーケティングが必要」と指摘する。社会の複雑化、人々の価値観の多様化にあって、声なき声、届いていなかった声をどう拾うかが問われている。
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