ベートーヴェンの「運命」本人は名付けてない驚愕 高い芸術性!東京藝術大学長のおすすめ4選

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「ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲はすごい」ということは、弦楽四重奏に取り組み始めたころから周囲には言われていたのですが、当初は正直、よく理解できませんでした。

しかし、実際に時間をかけて一曲一曲の楽曲に取り組んでみると、そのすごさに徐々に気づき、圧倒されるようになりました。

ラズモフスキーに捧げられた3曲より後、ベートーヴェンの音楽人生でも晩年にあたる時期に作曲された第12番から第16番の弦楽四重奏曲には、その魅力のすべてが注ぎ込まれているように感じます。「喜び」や「悲しみ」といったわかりやすいものだけでなく、思いやりや救い、ときには皮肉といった、人間が持ちうるさまざまな感情のすべてが音で表現されているような気がするのです。

一度は自殺を考えるほどの絶望を経験

ご存じのとおり、ベートーヴェンは若いころから難聴に苦しめられ、人生の終盤はほぼ全聾に近い状態であったといわれています。

32歳になる年には悲痛な心境を綴った「ハイリゲンシュタットの遺書」をしたため、一度は自殺を考えるほどの絶望を経験した彼が、それを克服したのちに「傑作の森」と呼ばれる創作の充実期を迎え、ハイドン、モーツァルトが打ち立てた古典派のスタイルを超えた、あらたな音楽表現を確立しました。

病んだ自分を克服したとき、きっと彼は神への感謝を感じたのではないでしょうか。第15番の第3楽章の澄んだ響きからは、そんな思いが感じられます。そしてこの曲を聴くと、バロック期にバッハが確立した音の祈りが脈々と受け継がれていることを感じます。

ピアノ曲にも、すばらしい作品が多数あります。『月光』(ピアノソナタ第14番)、『熱情』(ピアノソナタ第23番)と並んで三大ピアノソナタの一曲とされる第8番の『悲愴』は、私のお気に入りの一曲です。

重々しく始まる第1楽章に続く第2楽章は、誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。ベートーヴェンが書いたメロディーの中でもっとも優しく、心癒される調べだと感じます。最晩年に作曲された後期三大ピアノソナタと呼ばれる第30番・第31番・第32番にも、後期弦楽四重奏曲と同様、深い精神性を聴きとれます。

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