「2014年以来、ウクライナはヨーロッパで成長しつつある若い民主主義の輝きを見せてきた。地方自治は近年、その安定した『保証人』となってきたが、ロシアはその基盤を脅かしている」
民主主義はEUにとって重要な価値観だが、ヒトラーの全体主義を経験しているドイツにとってはなおさら重要なものである。そのため民主主義の脆弱性をカバーしつつ、健全な状態を維持しようとする力が大きい。その舞台となっているのが各自治体である。
今回のウクライナ侵攻では、ウクライナがEUに加盟申請したことが話題になったが、地方自治体もこの動きに共鳴しているように感じられる。バイエルン州内の自治体の声明からは自治体ベースで民主化を支援していることがうかがえる。また、EUとウクライナの連携協定の中の資金プログラムを使ってウクライナを支援しているグーテスベルグ市の動きは、EUとの距離を縮めるためのプロセスにも見える。
地方都市同士の連携が民主主義を強固に
前述の通り、ドイツの自治体にはロシア、ウクライナに限らず姉妹都市が多いが、こう見ていくと、ドイツ自治体は3つの立場を自認にしているように見える。
1つは、自律的なコミュニティとしての存在だ。EU拡大時の2000年代には、地方自治体の存在感が薄くなることを危惧してヨーロッパ内に姉妹都市を増やす自治体もあった。これは自律的なコミュニティとしての危機意識があったからである。
もう1つは、敗戦国として和解を促すための主体である。姉妹都市が増えたのは1945年以降で、これは「顔の見える交流による和解」という目的があったからだ。冷戦中にもかかわらず、ウラジミールと姉妹都市関係を結んだエアランゲン市も「国際的な理解と和解」が最も重要な目標で、市民同士の交流をその中心に据えている。
そして最後はEU、およびドイツで重要な民主主義という価値の実践現場としての存在である。自治体同士の関係を結ぶことによって、民主主義の価値、さらには民主化を広げ、維持する体制を確立しているのではないか。
とはいえ、今回の件についてはドイツの自治体の反応はさまざまだ。ウクライナやロシアの自治体と姉妹都市関係にある都市では、「人権、民主主義、法の支配の価値」を支持し、ロシアの自治体との関係を断つべきだという声がある一方、今こそ対話を通じて相互理解を促すべきという意見も出ている。
ドイツは今回、国防費の増加といった、歴史的な政策転換を図った。こうした国レベルの政策も気になるところだが、自治体からみたウクライナ侵攻にはまた別のリアリティと思惑が見えてくる。姉妹都市はその量、質において「世界最大の平和運動」という議論も出ており、今後その真価が求められることになる。
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