老後貧乏に陥りかねない「住宅手当で賃貸」の罠 引退後に収入減ってものしかかる「多額の家賃」

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しかし、都市部においてこうした買い損ねる人は増え続けそうなことを私は危惧している。実際、23区の持ち家率がこの5年で1.9%低下した(国勢調査2020年)。これは、アベノミクス以降のマンション価格高騰で買えなくなっている人が非常に多いためである。しかし、ここで諦めて賃貸に住むことにしてしまうと、以前『「家賃はもったいない」と言えるこれだけの理由』の記事で説明したように、生涯の住居費は持家の1.5倍になってしまう。自宅資産を持てる人が資産形成において有利であることは明らかなだけに、何としてでも自宅を手に入れる方法を考えなければならない。

「持ち家」持たずに老後を迎えると?

20代後半と40代後半の持ち家率を比較すると、23区の場合、約40%上昇。この20年の間に結婚し、子どもが生まれ、持ち家ニーズが高まるからだ。その中で、持ち家率の低下は夫婦のみの世帯で深刻である。35~39歳では5年前の35.9%から28.7%に7.2%ダウン、40~44歳では47.8%から40.0%に7.8%ダウンと大幅な下落となっている。子どもが持家に対する強い動機になることは事実で、ファミリー世帯では、30~34歳では5年前の42.5%が40.0%に2.5%ダウン、35~39歳では58.5%が54.6%に3.9%ダウンと下落幅は抑えられている。とはいえ、持ち家が取得しにくいという問題に変わりはない。

この5年の傾向に基づき将来予測をすると事態の深刻さが分かる。国勢調査を基に筆者がコーホート分析を用いて試算したところ、今の30代前半が60代前半になる2050年には、持家率は51.4%で2020年の62.8%の11.4%ダウンする。家族属性別には、夫婦のみの持家率は47.6%で2020年の73.5%の25.9%ダウン、ファミリーは72.4%で2020年の80.9%の8.5%ダウンとなる。持家を持たずに老後を迎えるとなると、収入が少ないのに多額の家賃で生活は苦しくなるだけだ。そんな世帯が半数近くにのぼるのは由々しきことである。

こうなる背景は分譲マンション価格だけではない。団塊の世代が定年を迎えてホワイトカラー不足となる2010年問題以降、日本では労働力不足は深刻な事態となっている。若者が流入する都市部でさえ、常に20代より60代が多い。これは毎年労働力不足が深刻化の一途をたどることを示唆している。このため、コロナ禍でも有効求人倍率は1を切ることはなかった。もうこの国では人口構成上、人手不足は恒久的課題なのである。

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