精神病院にいきなり4カ月入れられた彼女の告白 自治体職員から「車で話そう」と応じた後の凶体験

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2017年6月に入所したこのグループホームでは、入所時に通帳、印鑑、保険証、免許証などを取り上げられ、退去時まで返還されることはなかった。入所後早々に、作業所での就労を強要された。

四角いプラスチック製の箱にスポンジをはめていく、自動車部品製造の単純作業を、1日6時間程度強要された。作業所の休日は日曜日と隔週の土曜日だけで、祝日も勤務日だった。

グループホームの経営者は入所者が作業所への通所を嫌がると、合鍵を使用して土足で部屋に上がって罵声を浴びせ、胸ぐらをつかむなど脅して連れ出していたという。脱走した入所者が捕まって強制送還させられると、外鍵付きの部屋に事実上監禁されるようなこともあった。

桜井さんはこうした不当な行為に対して、栃木県や市にたびたび通報したことから「厄介者」と思われたのか、2018年1月にようやくグループホームを退所することができた。

その後も一時、劣悪な環境に生活困窮者を収容する、「無料低額宿泊所」での生活を余儀なくされることもあったが、翌2月には元居た茨城県内の市のアパートに移ることができた。まったく思いもかけなかった精神科病院への強制入院からすでに1年余りが経過していた。

つらかった向精神薬による副作用

桜井さんが4カ月強の精神科病院への強制入院の中で、もっともつらかったと話すのが、処方された向精神薬による副作用だ。

発達障害だと診断された桜井さんがその日から処方されたのが、1日2回服用するオランザピン(商品名「ジプレキサ」)5㎎2錠(10㎎)などだ。本来オランザピンには発達障害そのものに対する適応はない。

「この薬を飲んで数日後から、手足の内側から虫がはったような強烈なむずがゆさが襲い、じっとしていることができなくなりました。アカシジアという副作用だそうですが、皮膚の後ろにミミズが1000匹いるような感覚で、不快感を鎮めるためにひたすら動き回りました。とにかく拷問のようなつらさでした」

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「子どもと引き離されたうえ、ろくな診察もなく精神科病院に強制入院させられ、さらに見知らぬ土地の障害者施設に強制移住させられるなんて。これを主導した行政や従った病院や業者たちのことは決して許せません」

桜井さんは今、茨城県や市、精神科病院と民間移送業者、そして障害者グループホームを相手取って損害賠償を求める訴えを起こしている。

風間 直樹 『週刊東洋経済』編集長

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政経学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。14年8月から17年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、19年1月から調査報道部、同年10月より現職。著書に『雇用融解』(07年)、『融解連鎖』(10年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(13年)など。

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