2017年1月25日、当時暮らしていた母子生活支援施設に、市職員と屈強な男らがアポなしで訪れた。話があるというので、施設の会議室に案内しようとしたら、とにかく車で話をしたいとの一点張りだった。
抵抗すると、「ほら行くぞ」と手を引かれ連れて行かれそうになったので、それを振り払ったが、それでも職員らは「話すだけ」などと食い下がり、取り囲んで車へと誘導した。職員たちが一向に帰ろうとしないので、話すだけなら仕方ないと思い、車の中で話すことを了承した。
「精神科病院に連れて行かれちゃうよ」
車に行く前に、桜井さんは財布や携帯電話など貴重品を取りに行き、トイレにも行こうとしたが、職員は部屋にも戻らせてくれなかった。車内に押し込まれると、やり取りしていた市職員は乗り込まず、桜井さんと屈強な男たちだけを乗せて、そのシルバーのワゴン車は発車した。
「車内の男性たちはTシャツ、ジャージ姿でパーカーを羽織っており、市役所の人にしてはずいぶんラフな格好だなとは思っていました」(桜井さん)
車内で話すだけと聞いていたので、どこまで行くのかと尋ねたところ、男性からは市が指定した精神科病院に連れて行くと告げられた。
そのときに桜井さんの脳裏をよぎったのが、長男の一時保護をめぐって市の職員と言い合いをしたときに残した職員の捨てぜりふだった。
「これ以上苦情ばっかり言っていると、男の人が3~4人で来て無理やり精神科病院に連れて行かれちゃうよ。上司からは『もうやっちゃえ』って言われたけど、『まだ大丈夫』って断っておいたから」
「でもこれ以上言っていると本当にやられちゃうから気をつけて。いきなりアポなしでピンポーンって来て、ワゴン車に乗せられて連れて行かれちゃうよ」
車内の男たちはまさにその、民間移送業者なのだった。
「そのときは何を言っているのかわからず、バカじゃないのかと思いました。市役所にそんな権限があるとは思えないし、もし精神疾患のない人を無理やり連れて行ったら病院側が怒るだろうと呆れました。万一そんなことになっても、医師に冷静に事情を説明すればすぐに帰らせてもらえるものだとばかり思っていました」(桜井さん)
実際、民間移送業者の人間たちも車内で、手錠をちらつかせながら桜井さんにこう話していたという。
「結構暴れる人が多いけど、桜井さんはそうではなくて安心した。逃げられると追いかけないといけないからこっちも大変。市役所から、とにかく危険だからすぐに来るように言われたので、手錠を持って駆けつけてきたけど、たぶん診察だけで帰れるだろうから、そのときは責任をもって送り返すので」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら