マスコミ4媒体はなぜ「ネットに敗北」したのか 電通が発表「2021年広告費の成長」を読み解く

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一方NHKは独自にNHKプラスという、同時配信+見逃し配信のサービスを2020年から始めているが、民放と別々でいつまでやるのだろう。独自にやっている限り、「NHKをよく見る高齢者」というセグメント向けのサービスになってしまう。だから数が増えない。

さらにローカル局がネットでどうするかも大問題だ。同時配信はキー局がやっと開始した段階で、ローカル局も含めてどんな形になるかは何も決まっていないようだ。同時配信が東京の放送を日本中で見せるサービスになっていいのか。九州の人が、身近に起こった大水害について知りたいと思っても東京の火事のニュースを見せられ天気予報では関東の地図が出てくるのだ。そんなサービス、地方の人は怒るだろう。日本人の6割以上が地方に住んでいるのに、ローカルの情報をどうするかを決めないでどうするのか。

こんなことではテレビはネットで生き残れない。誰のためのサービスかも含めて、顔を突き合わせた議論が必要のはずだが、そんな気配はまったくない。

新聞はデジタルでどう生き残るのか

新聞業界に至っては、DXのデの字も感じられない。もっとも早くネット版を出していたはずなのに、先述のようにデジタルでの広告収入は213億円にすぎない。おろおろする様子ばかり伝わってきて、デジタル時代にこうする、という力強いビジョンを誰も掲げていない。

新聞の発行部数は団塊の世代が支えてきた。若い層がどんどん「新聞離れ」を起こしていたこの20数年間、高齢層は手放さずにいてくれた。その核である団塊の世代は2030年代に80歳を超える。人口ピラミッドの予測図を見ると、男性では団塊ジュニアよりグラフの棒が低くなる。読者がいなくなってしまう新聞はデジタルでどう生き残るか、今からでも本気で考えないと大変なことになる。10年後に日本中の巨大な輪転機が廃棄物になりかねない。

マスメディアがインターネットに負けた。それはメディアがマス中心からセグメント中心にパラダイムシフトする時代の変化を表す。だが、マスメディアのニーズは小さくなってもゼロにはならないはずだ。それは今回のロシアのウクライナ侵攻で誰もが感じているだろう。ニュース番組や新聞が正確な事実を迅速に伝えることには大きな価値がある。価値があることには経済価値もついてくるはずだ。マスメディアが生き残る余地がそこにある。

だがほっといても魔法のようにマスメディアが生き残れるわけではない。さまざまな試行錯誤と新たな発想が必要だ。テレビ業界と新聞業界が本気でDXに取り組まないと、どこかで戦争が起こっても本当のことがさっぱりわからない世の中になりかねない。旧弊に縛られず、既得権にしがみつかず、本気で自らを改革してほしいと思う。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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