ひとつだけ間違いないのは、いまさら11月17日(月)朝に発表される7-9月期GDP一時速報値に振り回される必然性は乏しいということだ。世間では、年率2%を超えれば増税OK、下回るようなら延期、などという解説がまかり通っている。しかるに7-9月期はすでに過ぎ去った過去の数字である。しかもGDPは、さまざまな統計を駆使して作られる推計値であり、この後で何度も修正されることになる。
確かに経済政策は、バックミラーを見ながら運転するようなもの。未来を知ることができない我々にとって、過去のデータは大切である。が、日本経済だけを見てどうこうという事態ではない。重要なのはトレンドだ。今後も日本経済は、適度な成長を持続することができるのか。ここは息を吸い込んで周囲を見回し、「ちょっと御免」というのが正しい勇気というものではないかと思う。
週末にブリスベーンで行われるG20首脳会議では、「世界経済安定化のために、ドイツはもっとインフラ投資をやれ。それから日本は、ホントに再増税をするのか?」といったプレッシャーを受けることだろう。だったら先手を打って、安倍首相は「日本は増税を延期します。これは世界経済のためです」と表明すればいい。
財務省の説明では、「日本は財政規律をしっかりしろ」と国際社会からハッパをかけられていることになっている。だが、Financial TimesやThe Economist誌を読むと、まったく違うことが書いてある。
たとえば最新のThe Economist誌は、「黒田日銀の大胆な決断は結構なこと。安倍首相も同様な大胆さで構造改革を強化しなければならない」「しかし増税に対しては慎重に扱うべきでだ。安倍首相は向こう12年間にわたり、税金を1年に1%ずつ上げる法整備を宣言すればいい」、「実施のタイミングは、経済が耐えられるようになるまで待つべきだ。それは来年ではないだろう」と書いている(”Big bazookas”11月8日号)。
世界が日本経済を見る目は、おおよそこんな感じだと考える方がいいだろう。
各種報道によれば、安倍首相は増税時期を2017年4月まで1年半の延期を決意したらしい。その場合、現在の衆議院議員の任期は2016年12月までなので、延期の判断について国民の審判を仰ぐ必要があると考えた、とのことである。
ちょっと怪しげな論理ではあるが、一応の筋は通っている。できれば民主党が、「それは三党合意を破棄するものだ。増税は断固行うべし」と主張してくれたらラッキー、てな思惑も垣間見える。しかし三党合意は、付則18条も含めての合意であるのだから、民主党が延期に賛成してもさほど不思議なことはない。その場合、対立軸が見えにくくなるが、争点は「アベノミクスに賛成か、反対か」でよろしかろう。
筆者としては、アベノミクスは本来、3カ年計画であると考えていた。2年目に信を問うのは時期尚早であろう。確かに野党の準備ができていない今は、国民の信を問うチャンスである。しかるに大義名分が乏しい「自己都合解散」に対し、世間の見る目は暖かいとは言い難い。まことにPragmaticなRisk Takingではないか。
安倍首相のギャンブルの行く末を見守ろう。
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