ところがこの秋頃から、歯車が少しずつ狂い始めた。そこで安倍首相は、PragmaticなRisk takingに出た。すなわち、「増税時期は1年半延期して2017年4月からとする」という安全策と、「野党の準備が整う前に、抜き打ち解散に打って出る」というギャンブルの組み合わせである。
裏目にでたギャンブル
この夏、安倍首相は文芸春秋9月号に『アベノミクス第2章起動宣言』を寄稿し、「経済成長こそ私の政権の最重要課題」と宣言した。Security Modeから、再びEconomic Modeに転じたのである。そしてここでも、「内閣改造で女性閣僚を5人登用」「臨時国会でカジノ法案を審議」などとリスクテイカーぶりを発揮した。
ところが、これらのギャンブルが裏目に出ている。女性閣僚は早くも2人が辞任に追い込まれ、国会では、改造内閣の閣僚に対する「政治とカネ」問題で追及が止まらない。そして(筆者が切望する)カジノ法案は、全く審議ができていない。
なにより景気が怪しくなってきた。このままだと、来年10月からの消費税再増税に黄色信号がともり始めた。何より正直なのは、政府による時々刻々の景気診断ともいうべき月例経済報告である。
内閣府は7月に基調判断を上方修正して、「4-6月期は悪かったけれども、7-9月期は良くなりますからね」と政府シナリオ通りを描いてみた。ところが9月には下方修正、10月も連続で下方修正となっている。月例報告の基調判断が、わずか2カ月で豹変するとは前代未聞の出来事だ。官庁エコノミストたちが、「私どもは景気動向を読み違えておりました」と告白しているに等しい。
それに輪をかけて、特に10月から海外経済の動向が不穏になってきた。Euro(欧州経済圏の不振)、Emerging(新興国経済の減速)、End of Easing(QEの終了)、Ebola(エボラ熱の感染拡大)、そしてEnergy(原油価格の急落)など、Eを頭文字とするいくつもの不透明性が世界をかく乱し始めた。
たまたま10月31日のハロウィンの日に、「黒田バズーカ」がさく裂して「悪魔祓い」をしてくれたので、世界同時株安は一気に株高に転じた。だからと言って、追加緩和だけでいろんな問題が解決するわけではない。いくつものEの裏側を読み取らないと、世界経済の不透明性の正体が見えてこない。
ここは怖気づくのが正しい態度だと思う。「消費税増税法案の付則18条は、リーマンショック級の緊急事態を想定してのことであって、よほどのことがない限り増税は予定通り」(野田税調会長)、という理屈はその通り。しかし増税のタイミングは来年10月だ。その間に「リーマンショック級が起きない」と言い切れる自信があるかどうか。
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