企業や行政が動くことでもたらされる効果は大きい。しかしながら、多言語対応の進展という観点でいえば、個人レベルでより早く顕著な動きが見られそうだ。報道によると、オリンピックボランティアとして8万人以上を募る予定だという。その役割は外国人観光客のための通訳や道案内のほか、会場の警備や輸送車両の運転、医療など多岐にわたる。
このようなボランティア募集情報に関心を持つことで語学学習意欲が喚起され、個人レベルでの多言語対応が進むことに期待がかかる。オリンピック開催まで5年以上の期間があることから、そこに照準を合わせて今から外国語を学習しよう、という趣旨の広告も見られるようになってきた。
実際、すでに効果は数字に表れた。外国語会話教室の受講者数の推移を見ると、2009年2月以降、前年同月比マイナスが続いていたが、開催が決定した2013年9月から前年同月比プラスに転じている。具体的には、2013年8月の受講者数が前年同月比▲1.4%だったが、2013年9月~2014年5月の受講者数が平均で前年同月比+1.4%を示している。東京オリンピック開催決定は、語学学校市場の活性化をもたらしているようである。
交通機関の多言語対応、経済効果は85億円
前述のように、足元ですでに、外国語会話教室の受講者数が増えるといった個人レベルでの多言語対応の進展が見られた。このようなオリンピック開催決定により促進される、企業や個人の多言語対応の経済効果は、どの程度になるだろうか。みずほ総合研究所では、企業レベルの具体例として交通機関の多言語対応による経済効果について、および個人レベルの対応の具体例として語学学校市場の拡大による経済効果について、それぞれの規模を試算した。
はじめに、交通機関の多言語対応による経済効果を検討するが、ここでは、移動手段として利用されるタクシー・鉄道・バスを対象としている。
タクシーの多言語対応としては、英語が話せるタクシーの配送手配などのシステムを盛り込んだ多機能型カーナビの導入が期待される。ただし、同機は高額であるため、すべてのタクシーへ導入されることは現実的ではない。
そこで、東京都内のタクシー会社のうち、大手4社は多機能型カーナビを導入し、大手4社以外は比較的安価に利用できるタブレット端末(翻訳機能の利用など)を整備することで多言語に対応すると考えた。鉄道については、駅構内の案内板におけるピクトグラム・多言語表記の拡大のほか、駅員の訪日外国人への案内を補助するためのタブレット端末の配置、駅員の負担軽減や対応能力増強を目的とした無人端末(道案内・乗換案内など)の導入が進むと考えた。また、バスについては、車内表示が多言語表記へ変更されることを想定した。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら